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摂食障害を克服して日本記録 陸上・寺田明日香の大切な言葉「逃げることは悪くない」

4月末に日本記録更新で長女・果緒ちゃんと記念撮影、6月1日には12秒87で再び更新した【写真:奥井隆史】
4月末に日本記録更新で長女・果緒ちゃんと記念撮影、6月1日には12秒87で再び更新した【写真:奥井隆史】

今の指導者へ、選手へ、経験者だから伝えられるメッセージ

 今もなお、どこかで悩んでいる選手がいるかもしれない。指導者はどう対応すればいいのか。摂食障害を克服し、日本記録保持者になった寺田に意見を聞いた。少し長くはなるが、大切なことが詰まった言葉に触れてほしい。

「日本のスポーツ界は、まだ師弟関係というか、シニアになっても部活動の『先生』と『生徒』みたいな空気感がありますよね。それが結果に表れることもあれば、一歩間違うと心が病んでしまう人もいる。平等とまではいかなくても、指導者と選手のコミュニケーションの取り方は、かなり近い関係になればいいのかなと思います。

 指導者は選手が悩んでいる気配を感じたら、まずは何に悩んでいるのか見極めた方がいいと思います。結果なのか、取り組んでいる過程が嫌なのか、自分が掛けた言葉で傷つけるようなことはなかったか、コミュニケーションを取れているか。子育てとコーチングは似ている部分もある。同じことを言ったつもりでも、選手によっては気合が入るけど、もう片方は傷つくとか。選手の特徴を見極めるのが大切です。

 人と人との付き合いなので、人としての基本的な部分にしっかりと目を向けること。スポーツの世界にだけいると、そういうものを見落としがちになってしまう。技術とか体力、結果に目を向けがちですが、人としてあるべき大事なことを忘れてしまうこともあります。まずはそこに目を向けてほしいです。

 男性指導者だけではなく、女性指導者でも難しいことがあります。それぞれの考え方も違いますし、自分に染めようとしすぎないのが大事だと思います。男子選手より女子選手の方がコーチを信頼する度合いは高いと思うんですよね。自分で考える余地をうまく与えるようにやれたらいいのかなぁ~とは思います」

 明るく高い声。「いいのかなぁ~」のやんわりとした語尾は、決して強要しているわけではないことを表現している。SOSを出せない、出す必要性にすら気づけていない今の選手にもアドバイスを送ってもらった。

「まず女の子の場合、どうしても体の変化が起こる時期があります。その時にどういう行動ができるか考えてほしい。自分の行動に見直せる部分はないのか。例えば、おやつにスナック菓子を食べてしまうようなことがなかったかとか。いつも通り過ごして体が変わるのであれば、もうその時期を認めること。やるべきことをやった上で、それでも体の変化する速度についていけないのであれば、一度立ち止まってみることも大切です。

(周りの選手には)体重計の数字だけで見ないように言っています。中身が大事だし、そこに行き着く過程が絶対にある。例えば重さだけではなく、体組成がどうなっているかとか。体組成を見直した時、自分は何をやってきたのか。『まずはそっちに目を向けてほしいなぁ~』ってやんわり伝えています。

 あとは男子選手も女子選手も、スポーツだけの自分ではなく、いろんな面を持ってほしい。そうしないと疲れちゃう。スポーツをやっている自分、勉強している自分、仕事をしている自分、家族といる自分、友達と遊んでいる自分。いろんな面を作って、いろんな人とうまく付き合ってもらえればいいのかな」

 自身にとってスポーツとは。良く聞かれるこんな質問には「人生を豊かにするツール」と答えている。大切なことではあるが、人生の一部に過ぎない。

「『逃げるな』っていう指導者もいらっしゃいますが、私は逃げることは全然悪いことじゃないと思う」

 目の前のハードルは、必ずしも飛び越えることはない。たまには下をくぐっても、横を通り過ぎてもいい。一度トラックを離れて強さを増したハードラー。次世代への想いが込められた言葉だった。

■寺田明日香 / Asuka Terada

 1990年1月14日生まれ、北海道出身。小4から競技を始め、北海道・恵庭北高時代に100メートル障害でインターハイ3連覇。卒業後、08年から日本選手権3連覇など活躍し、13年に現役を一度引退。2014年に早大人間科学部に進学し、同年に結婚・出産を経て、16年夏に7人制ラグビーに挑戦し、17年1月から日本代表練習生として活動。18年12月に陸上界復帰を表明。最初のシーズンの19年は日本選手権3位、9月に12秒97の日本新記録樹立、10月の世界陸上に出場。今年は4月28日に12秒96、6月1日に12秒87と自身の日本記録を更新。6月末の日本選手権で大会史上最長ブランクとなる11年ぶりの優勝を果たし、東京五輪代表の座を掴んだ。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)


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