内村航平引退イベント、選手たちが明かした秘話とは

　体操男子個人総合で五輪連覇した内村航平（ジョイカル）の引退イベント「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」が12日、東京体育館で行われた。「キング」と呼ばれたスポーツ史に残る歴史的選手がついに引退。美しい演技による輝かしい実績もさることながら、言葉でも仲間たちを救ってきた。この日参加した日本代表8人が内村にまつわるエピソードとともに証言した。（文＝THE ANSWER編集部・浜田 洋平）

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　内村がどれだけの存在だったか、改めて浮き彫りになるイベントとなった。最終種目の鉄棒を終えると、選手ら関わった一人ひとりと丁寧にハグ。胴上げでは6度宙を舞った。一人のために用意された舞台。観客席のファンからすすり泣く声が漏れ、感動の光景が広がった。

　ただ、内村は背中で引っ張ってきただけじゃない。それぞれの選手に気を配り、要所で言葉を掛けた。救われた選手たちは数多い。敬意と感謝を込めて明かしてくれた。

　白井健三さんは、8学年上の内村と公私とも繋がりが深い。自身が10歳の時、大学1年ですでに世界で活躍していた大先輩と練習する機会があった。「リオの時、19歳か。いけるな」。この一言で五輪が現実味を帯びた。「僕は捻るだけの少年だった。でも、それだけ先を見ている人。僕が五輪に行くことを誰よりも先に見抜いていた」。一緒にリオ五輪団体で金メダルを獲得し、夢を叶えた。

「リオの時、あれだけ結果を残していても『俺について来い』の一点張りじゃない。『しっかり一緒に頑張ろう』と言って周りを見ている方です。航平さんがキャプテンをやってくれたからチームの雰囲気がつくられた」

　同五輪団体メンバーの加藤凌平（コナミスポーツ）も救われた。振り返ったのは15年世界選手権前の出来事。足首を負傷した加藤は、出場を決めかねていた。「俺なら痛くても出るけどね」。大事を取るべき時もあれば、少しくらい無理が必要な時もある。加藤はこの言葉で出場を決意。日本が団体を制し、この経験が翌年のリオに繋がった。

「体操界も、個人的にも、航平さんがいたからレベルアップできた。本当に尊敬しています」

　内村より1学年下の田中佑典（コナミスポーツ）にも心に残る言葉がある。「世界大会で上手くいかずに打ちひしがれていた」。そんな時に掛けられた一言だった。「佑典はチームに必要だから」。前を向けた。「また頑張ろうと思えた。その一言だけで」。田中はリオ五輪団体決勝の平行棒で15.900点を叩き出し、3種目を演技。日本になくてはならない存在になった。

「追いかけるしかなかったけど、一緒に団体を踏んで、チームを一つにして、世界でみんなで戦って、その中で成長して、日本の体操界を引っ張ってくれた。いつも前向きな言葉で勇気をくれる。体操への姿勢を見ているだけでも影響を受けます」

　同学年の選手にとっても、とてつもない存在だった。山室光史（コナミスポーツ）は「ちょっと僕の場合は付き合いが長すぎる」と笑う。出会いは高校2年。日体大、社会人ではチームメイトになり、ずっと身近なライバルとして競い合ってきた。

「航平の方が先に代表になって、負けたくないと思ってともに進んできた。彼は世界チャンピオンとして走っていて、それを追いかけながらやってきて、ロンドン五輪に一緒に出られた。僕はそこで怪我をして凄く苦い思い出になった」

　失意の真っ只中にいたその日、寄り添ってくれたのが内村だった。「4年後に一緒に戻って来よう」。ロンドンで過ごしたあの一夜は忘れられない。「その言葉だけを追い求めてリオまで行った。ずっと自分の中ではライバルであり、尊敬する人という不思議な立ち位置。それはずっと変わらない」