球児の肘、肩を守るには― 広島の3連覇トレーナーが語る“野球現場のリアル”
最大の問題点は“情報不足”
野球界は育成年代からトップ年代までの組織構成が非常に複雑だ。小学校から軟式と硬式に分かれ、中学校に上がっても部活動、シニア、ボーイズなどさらに細分化が進む。そして高校、大学と別組織が統括しており、一貫した統制が取れていない。だから正しい情報が伝達していかないという側面もある。
石井トレーナー部長は野球界の組織構造がこうした問題の要因の一つであると感じている。そうした中、プロ、アマ日本の野球界が一体となって、普及、振興を中心に、将来を見据えた活動をするための組織「日本野球協議会」が発足された。ここを起点に情報を発信しているが、まだまだ浸透していないのが現状だ。
「育成年代は知識や経験がない。情報量が少ない。指導者の方に理解を深めていただければ、もっとうまくいくのではないでしょうか。大事なのは、心技体、情報、環境の5つです」と声を大にする。
「指導者の方々に適切な情報を伝えないといけない。今、ジュニア世代が、中高生ができることは何なのか。肩が痛い時にどうするか。これはマクロの話で、答えは一つではありません。ただ言えるのは大切な要因として肩甲骨の動き、股関節の動きが密接にかかわってくるということ。そしてそれの動きを改善させる方法なのです。チューブトレーニングをやる時も、姿勢が崩れていると非効率に筋肉がつくこともある。これは本当に多いようです。そうならないために、こういうエクササイズが必要だと、きちんと開示していく必要があります」
石井トレーナー部長が強調するのがアスレチックリハの大切さ。怪我をした後に最初の段階が「安静」。そして基本動作の反復やランニングなどの「リハビリ」。その後、「実戦」に移る手前の段階が「アスレチックリハ」だ。
「ケアというか、準備の部分です。早く実戦に復帰したい、させたい思いがあるからなのか、ここが抜けてしまう。近年チームが一番大切に取り組んでるのがアスレチックリハビリテーションです。そこが抜けることでいろいろな障害の発生リスクが高まります。数多く投げても、アスレチックエクササイズをやることにより、正しい体の動き方が獲得でき、それに基づいて怪我のリスクを下げたくさん練習できる。これが1番です。12球団の中でもカープが一番時間かけている部分。マツダスタジアムのトレーニングルームは試合開始の数時間前から、これをやっている選手がたくさんいます」
3連覇を成し遂げた広島。3年連続でペナントレースを独走したが、その要因の一つが怪我人の少なさにある。不可避だったアクシデントを除いて、主力の中に故障で長期離脱した選手は見当たらない。それも実戦に臨む前の準備に時間を費やしているからだと、石井トレーナー部長は繰り返した。