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吉永健太朗のシンカーを忘れない 甲子園V投手が別れを告げた「人生を変えた」魔球

「高卒でプロ入りしていたら」―“タラレバ”の的になった野球人生

 勇退が決まった後、一番に連絡したのは、妻の涼子さんだった。早大でチアリーダーとして大学時代から声援を送ってくれた同級生。交際6年を経て、昨年12月に結婚した。肩の手術を経て、復帰を目指していた最中だった。「自分が苦しい時を知っていたので『本当によく頑張ったよ、お疲れさま』と」。ずっと支えてくれた最愛の人の言葉で、第二の人生に切り替えることができた。

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「自分は目標に対して生きてきたので、野球ならもっとうまくなりたいということだけ。でも、引退と言われてしまったら、それはもう変えようがないし、仕方ないと思った。わりと現実主義なので。じゃあ、次の目標はなんだろうと考えたら、社業で信頼を得られるように精いっぱい取り組んで、今まで応援してくれた方々に恩返しすることだと思う。今はそれだけを考えています」

 振り返れば、どんな時も「現実」を冷静に見ていた。吉永ほど、近年のアマ球界で“タラレバ”の的になった選手は少ない。「高卒でプロに進んでいれば……」。それが、最たる例だ。確かに、高3でプロ志望届を提出していれば、指名は確実だった。

 ただ、本人は「その時だけを切り取れば、そう思う人がいるのもわかる。でも、探り探りだったフォームが高3夏にハマっただけ。甲子園だって2回戦(開星戦)は9失点して、打線が助けてくれた。自分の力で優勝したなんて思ってない。だからこそプロに行くべきじゃなかった」と言う。「早稲田に使い潰された」なんて、根も葉もない噂も「それは間違いです。誰かに何かを言われておかしくなったわけじゃない。間違っていたのは、フォームばかりを追い求めていた自分の考えなので」と分析している。

 だからだろう。高3で初めて取材してから、今まで“自分以外の誰か”のせいにする発言を聞いたことがない。これが野球選手として取材する最後の機会。何か言い残しておきたいことは――。少し迷った後で「一つだけだけ言うなら……」と口を開いた。

「いろんなところで見ていると、自分と同じ過ちを犯そうとしている人が野球界にたくさんいると感じる。高校時代に活躍した投手がフォームに悩んで、不振に陥る。そういう人たちはみんなテイクバックで考えすぎてしまう。それが自分にとって、一番の間違いだった。がむしゃらに身に付けたものを考えすぎてしまうと狂ってしまう。簡単に変えられるけど、変えちゃいけないのがテイクバックだと思う。細かいことなんか気にしないで、トップの位置だけを意識すればいいって、最後に伝えておきたいかな」

 現在は、正式配属が決まるまで研修に取り組む日々。1月下旬から駅に出て、業務に就く。「元甲子園優勝投手の駅員」が生まれることになるが、これからも「甲子園優勝投手」という肩書は消えることはない。今、率直に、その事実について思っている。

「その時はうれしい結果でしかなかったけど、歳を重ねて今は職場に野球好きの方が凄く多くて、『甲子園優勝投手』で注目してくれる。それをプラスに変えるのも、マイナスに変えるのも自分次第。いい意味で刺激になり、頑張る原動力になっていく。最後は落ちるところまで落ちた野球人生だったから、もう上がるしかない。過去を求めても、戻れない。新しく生きていかないと、立ち止まってしまう。それが、僕にとって野球人生から得た反省だし、教訓として生かしていかないとって、今は思っています」

 野球人生の思い出話に花を咲かせ、食事の席もたけなわとなった頃、吉永が「実は……」と打ち明けた。「引退までの3か月、最後にシンカーを投げていたんです」と。夏に話を聞いた際には「なんで、あんなに投げられていたか、今はもうわからないです」と自嘲気味に言っていた勝負球に、野球人生の終わりを覚悟した最後の最後で挑戦していたのだ。その想いに、胸を打たれた。

「今年で終わるなら、しょうがないと思っていた。でも、投げずに終わりたくない。嬉しい思いも苦しい思いもしたけど、シンカーが自分の野球人生のすべてだったから。シンカーなしに自分はない。だから、自分はもう一度、追い求めるべきだった。そこに後悔はない。最後にもう一度、投げて良かった。三振も取ることができたんです、もちろん全盛期ほどではなかったですけね」

 もう見られることはない、あの軌道。しかし、吉永健太朗のシンカーを忘れない。浮いて、逃げて、落ちる。最強の甲子園優勝投手の「人生を変えた」魔球を、ずっと――。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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