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日本に2度目のラグビーW杯はやってくるのか 2035年に照準も…大会は巨額ビジネス化、WRとの“綱引き”に

記念撮影に応じた(左から)ロビンソン会長、土田雅人JRFU会長、アラン・ギルピンCEO【写真:吉田宏】
記念撮影に応じた(左から)ロビンソン会長、土田雅人JRFU会長、アラン・ギルピンCEO【写真:吉田宏】

重視される従来以上に収益性の高いスタジアムと地域

 大会毎にグローバル化が進み、既に多くの巨大企業がメジャーパートナーとして地域や国に関係なく投資をしているのがいまのW杯だが、開催国国内での投資や消費などは収益面では軽視できない。2023年のフランス大会における消費総額が3000億円近くだったことからも判るように、W杯自体が巨額なビジネスと化している。その中で、この世界屈指のイベントの開催を躊躇する国も増えていく可能性は十分にある。収益性という観点からは、2003年以来の2度目の単独開催を27年に実現するオーストラリアの開催都市の選考からも、その影響が伺える。

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 WRおよびオーストラリアの組織委員会は1月に2027年大会の開催都市を発表した。しかし、そのリストには首都キャンベラの名前はなかった。首都建設を目的に造られた計画都市だったキャンベラは、確かにシドニーやブリスベンにあるダウンタウンの活況はない。ラグビーに目を向けると、長らく国内ラグビーを牽引し、多くのスター選手も輩出したATCブランビーズの本拠地でもあるが、チームのOBでもあるロビンソン会長は「キャンベラには適切な施設がない。つまりW杯が開催出来るほどのスケールがないのです。商業的にも、そこまでチャンスが見込まれないために選ばれなかった」と指摘している。

 この発言から読み取れるのは、従来以上に収益性の高いスタジアム(地域)、つまり人の流れがあり、観戦チケット購買者が多く、キャパシティもある場所が重視されているという現実だ。この先の開催国、候補地を見ても、27年のオーストラリア、31年のアメリカ合衆国と強い資本と収容力のあるスタジアムを持つ国での開催が続く。サッカー王国スペインも“器”なら事欠かない。その中で、間違いなく日本の強みになるのは、19年大会の開催実績だ。ギルピンCEOはブリーフィングで、こんな発言もしている。

「2019年の成功が、JRFU、日本政府、自治体の皆さんにとっても大きなレガシーになっていると感じている。また、W杯においては、様々な法人、放送局、その他のメディアと貴重なパートナーシップを築き、それが現在に至り、将来にも続いている。アサヒビール、キヤノン、大正製薬といった皆さんとの力強いパートナーシップがラグビーを支えているのです」

 2019、23年大会にも関わった日本側の関係者、企業との強い繋がりを、CEOは社名も挙げて語り、その親和性を印象付けた。アサヒビールは日本開催の19年大会はオフィシャルビールの座をハイネケンに譲ったものの、23年フランス大会でヨーロッパのビールを押しのけて「プリンシパルパートナー」という上級スポンサーに就いている。現地フランスでも「アサイ(アサヒ)」人気は上々だった。さらに昨年には、その提携を今年の女子イングランド大会を始め、27年男子、29年女子のオーストラリア大会まで伸ばしている。19年大会でWR首脳と関係性を築いた日本企業、アサヒビールのようなWRと直接提携関係を結ぶ企業の存在も、2度目の日本開催には力強い訴求材料になるのは間違いない。

 このような日本の立ち位置の中で、場合によっては「開催年」以上にWRとの“綱引き”が起こりそうな要素も、ブリーフィングから読み取ることが出来る。ギルピンCEOのコメントを紹介しよう。

「WRにとって、7人制の成功は世界でラグビーを成長させるためには極めて重要です。そこについては日本政府、JRFU、日本の関係者の皆さんにお礼を申し上げたい。それは2021年に開催されたオリンピックの成功です。あの当時は(パンデミックで)大変だったと思います。その中で、関係者の皆さんが、本当に献身的に準備をして、あれだけ質の高い大会を開催してくれた。あの時の7人制の成功が、パリ五輪での成功に結び付いたと思います。日本の皆さんの協力、成功はラグビー界には重要です。これから15人制だけではなく、7人制の大会も日本で開催する可能性についても話し合いが持たれています」

 日本の7人制への貢献を称賛しながら、さらにこのカテゴリーのイベントへの日本の関与を強く求めているのが判る。この発言を引き継ぐように、ロビンソン会長もこう続けている。

「世界でラグビーが発展していくためには、女子のラグビーへの投資は非常に重要で、WRは投資を続けていきます。女子ラグビーの選手数は300万人に近づいています。その中で、アジアという地域の中で日本が15人制だけではなく7人制でも活躍してくれることが、やはりアジア、そして世界のラグビーに発展をもたらしてくれます。パースでの、日本の7人制での成功が、今年の15人制W杯の成功に繋がると私たちは信じています。7人制も身近なスポーツになれるように情熱を持って取り組んでいきたい。その中心に、日本の皆さんがいてくれて、それが今後も続くだろうと思っています」

 CEOが7人制の重要性を唱え、会長が女子の価値にも踏み込んでいく。2人の連携で、WRが日本に何を求めているかを明示している。1月最終週にパース(オーストラリア)で行われた7人制の国際サーキット「HSBC SVNS」で、女子日本代表が過去最高タイの5位と躍進したことも引き合いに出しているが、このようなコメントは日本代表の活躍を称賛するだけではなく日本協会への強い期待感が込められている。土田会長も2035年の男子W杯と2年後の女子大会開催をセットとして訴えているが、WR上層部がW杯に止まらず、男女15人制、7人制などあらゆるカテゴリーの国際大会の開催を日本に求める姿勢を強めているようにも感じられる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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