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物流業界から参戦、ラグビー界の風雲児になるか 創部10年あまりの無名軍団が狙うリーグワン参入

昨季唯一の秩父宮での明治安田生命戦に競り勝ち大応援団に挨拶するモモタローズ選手たち【写真:AZ-COM丸和MOMOTARO’S提供】
昨季唯一の秩父宮での明治安田生命戦に競り勝ち大応援団に挨拶するモモタローズ選手たち【写真:AZ-COM丸和MOMOTARO’S提供】

企業スポーツについてGMの持論は「経営資源」

 そして、スタジアム構想の前に直近の大きな課題と考えているのが職場環境の整備だ。これまでに携わってきたチームと大きく異なる特色が、このチームにはある。

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「このチームは、毎年多くの選手が退部して、多くの選手が入ってくる。チーム作りが、そういう繰り返しなんですね。これは、やはりチームの文化もできないし、チーム力を上げていくのも困難です。一番変えなきゃいけないのはそこなんです」

 2023年シーズン後の退団選手は18人。今季の新人はまだ正式発表されていないが、23年シーズン前は11人が加わり、14人がチームを離れている。ここには物流業界特有の風土もあるという。

「業界の問題だから、そこはよそ者として発言できるものじゃないと思っています。でも、社内の方から聞くと、物流業界は出入りが激しいという。多くの社員が数年で会社を辞めてしまう。そういう連鎖がラグビー部員にもあるというのは、選手との1対1のミーティングでも聞いています。そんな中で、和佐見社長は定職率を高めたいと思っています。一般的にラグビー選手というのは7年、8年とか10年以上プレーしながら働き、引退後も経験を生かしながら仕事をしている社員も多い。なので、もし私たちのチームで定職率を高めていけることができれば、社内で1つのモデルを提示できるのではないかとも思うんです」

 日本人選手が全員社員という状況で、チームのGMが給与体系に踏み込むのは難しいが、その中で、どう選手をサポートし、魅力のある職場、プレー環境を整えることが出来るかが勝負だろう。NEC時代に選手の待遇を変え、日野の強化環境を整備した経験も役立つはずだ。

「実際のチームの活動は、仕事を終えて夕方から夜遅くまで練習がある。職場から柏のグラウンドまで移動に時間がかかる選手もいます。でも、それは給与に反映されていない。一般の社員は、それが残業になっている。物流業界の給与をみると、残業代が大きなウェートを持つ傾向もある。そこに2024年問題もあるので、収入面での課題もある。ラグビーをやると収入が上がらない、残業ができないという問題はあるだろうと思っています」

 社員選手の環境を整えるのと同時に、チームは海外選手も含めて、新シーズンへ向けた移籍市場にも挑戦していくことになるだろう。プロ化について細谷GMは独自の視点、価値観で捉えている。

「私自身は、選手がプロ契約するのばかりがプロではないと思っています。事業がプロとして、会社から運営費をもらって運営していくことが重要になる。そのためには、どうチームの価値を高めることで、会社を高めてくれるのかだと思います。そこに、もし賛同してくれる他の企業が出てくれば、まさしくプロ経営になるはずです。選手はプロでも社員選手でもいい。プロ運営を目指していくことが一番重要なのかなと思います」

 細谷GMは、企業スポーツというフィールドでチーム強化・運営に携わる中で、こんな持論を持ち続けている。

「企業スポーツでのラグビーは、単なるラグビー部じゃない。経営資源です。会社の中での唯一無二とういうか、他ではできない事業貢献する一つの形にラグビーを持っていきたい。ラグビーを経営資源に生まれ変わらせるんです。そうなった時にラグビーを仕事として認めてもらうところまで持っていけると思っています」

 ラグビーの「勝ち」と同時に「価値」を問い続けてきた細谷GMが、どこまで“丸和ビジョン”を描き上げ、推進できるかは、和佐見社長の理解と熱意が不可欠だ。今回のコラムは新GMの単独インタビューをベースにしたが、機会があれば、あらためて“オーナー“のチームへの思い、ご自身が描く未来図も聞いていきたい。実力、運営力含めてまだ若いチームを、これから先のステージへ成長させるために不可欠なパズルの重要なピースが、そこにある。

■AZ-COM丸和MOMOTARO’S 2013年に丸和運輸機関ラグビー部として創部。17年度に関東社会人リーグ1部入りして、同年トップイースト・ディビジョン2に昇格。21年にトップイーストC全勝優勝。22年にイーストBで優勝、23年シーズンは同2位で入替戦に挑み、横河武蔵野アトラスターズを倒してイーストA昇格を果たす。

■細谷 直(ほそや・ただし)1964年10月12日生まれ。東京都出身。明大中野高―明治大―NEC。92年で現役を引退して、96年より採用、分析担当。2000年NECチームディレクターに就任して02年度に日本選手権初制覇。07-10年監督兼GM。10-13年明治大ヘッドコーチ。14年に日野レッドドルフィンズコーチ、14年に監督兼GM。17年にトップリーグ昇格、20年7月退任。24年シーズンから現職。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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