73歳名将が女子ラグビー初指導の理由 大学日本一6度、10年ぶり指導で「ハッと気づかされた」
1990~2000年代に大学ラグビー界を席巻した関東学院大学を率いた春口廣元監督が、今季から女子チーム「YOKOHAMA TKM(横浜TKM)」監督に就任した。無名のチームを大学選手権優勝6回、リーグ戦優勝10回の常勝軍団に鍛えた名将だが、強豪高校からのエリート選手や留学生らに頼らず、体育会的な上下関係などの因習に囚われずに常勝チームを鍛え上げた。部員の不祥事なども影響してチームを離れて10年。73歳で新たな挑戦を始めた名将に、女子チームという別次元の“第2章”に敢えて飛び込んだ思いと、課題、そして往年の大学最強チームを築いた指導者が考える学生スポーツの理想と現実を聞いた。(取材・文=吉田 宏)
女子ラグビーYOKOHAMA TKM・春口廣監督インタビュー前編
1990~2000年代に大学ラグビー界を席巻した関東学院大学を率いた春口廣元監督が、今季から女子チーム「YOKOHAMA TKM(横浜TKM)」監督に就任した。無名のチームを大学選手権優勝6回、リーグ戦優勝10回の常勝軍団に鍛えた名将だが、強豪高校からのエリート選手や留学生らに頼らず、体育会的な上下関係などの因習に囚われずに常勝チームを鍛え上げた。部員の不祥事なども影響してチームを離れて10年。73歳で新たな挑戦を始めた名将に、女子チームという別次元の“第2章”に敢えて飛び込んだ思いと、課題、そして往年の大学最強チームを築いた指導者が考える学生スポーツの理想と現実を聞いた。(取材・文=吉田 宏)
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桜の季節を経て、新緑の時を迎えた横浜市内のグラウンドで、73歳の新人監督が眩しそうに練習する横浜TKMの選手たちを見つめた。
「監督になって、ちょっとハイテンションになっちゃってね。やはり関東学院と同じ、勝つチームを目指さないといけないと思いながら、今はとにかくこのチームがどういうルールで動いているのか、ここの習慣というものをきちっと吸収していかないといけないね」
大学最強と謳われた関東学院大の監督の座を降りて、今年で10年の歳月が流れた。古巣のチームは強豪校の称号を帝京大、明治大、早稲田大らライバルたちに譲り、昨季の関東大学リーグ戦で2部陥落という苦闘を続けている。たが、春口監督が率いた時代には、1997年の初優勝から大学選手権優勝6回、10シーズン連続決勝進出など輝かしい成績を残した。1974年に監督に就任した時には関東大学リーグ戦3部だったチームを、手塩にかけて頂点へ引っ張り上げたのだ。
当時の関東学院大は、強いだけではなく、ボールを積極的に動かすラグビーでファンを魅了した。展開力を生かすために、接点でのボールの争奪、リサイクルに長けた機動力のあるFW(フォワード)を育て、BK(バックス)にはスピードと決定力に優れた選手を1年生でも積極的に起用した。緻密な戦術の構築と思い切りのいい展開ラグビーという魅力を併せ持つスタイルで、大学ラグビーに新風を起こした。
ゲームスタイル同様に当時斬新だったのは、厳しい上下関係などいわゆる体育会的な伝統に囚われないオープンな雰囲気が、常にチーム内にあったことだ。練習前には、学生だけではなく監督も混ざって冗談を飛ばし合い、選手が学年に関係なく伸び伸びとプレーする姿に憧れて入部する選手も少なくなかった。練習取材で感じたのは、総勢200人もの大所帯のチームながら家族のような一体感を持っていたことだった。