誠実、ガキ大将…相反する言葉もしっくりくる人間性

「あれ？　顔、むくんでません？」。記者の深酒もお見通し。「髪がチャラくなってる」と些細な変化も見逃さない。それだけいつも周りをよく見ていた。焼肉では自らトングを手に取り、記者を気遣わせまいとせっせと焼いていく。湯水のごとく出てくる“すべらない話”を披露しながら。

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　自然に囲まれた走り込み合宿。虫嫌いの記者がいれば、わざわざバッタを捕まえ、顔に近づけにいく。ある年上ボクサーは「村田の後輩じゃなくて、ほんっっっっとうによかった」と力を込めていた。でも、こちらが強気にいじり返しても、懐深くツッコミを返してくれる。いつも人が引き寄せられ、そこには笑顔があった。

　誠実、ガキ大将、冷静、情熱家、愚直、現実主義、聡明、笑えるバカっぽさ、目立ちたくはないけど寂しがり、そして謙虚……。相反するどの言葉でさえもしっくりくる。それだけ人間味に溢れていた。時には強がる一方、「ベルトを失うのが怖い」「自分はヘタレ」と弱い部分も素直にさらけ出す。だから、共感を呼び、人が集まってくる。

　担当記者としても楽しく、やりがいがあり、たくさん勉強させてもらった。「居場所のつくり方」を聞いたことがある。「初めから人気者やったわけちゃいますよ」。控えめな返答の続きはこうだ。

「僕は高校のデビュー戦も負けてますし、そうやって一緒にいる中で負けた気持ちを共有していった。高校って同じような夢を持つ者同士が集まるわけでしょ。そこで泣いた、笑ったがある中で居場所ができてくるわけであって、何もないのに居場所だけ要求したってしょうがないですよ。夢とか志がないところに仲間なんて集まらない。

　同じような夢を持つと、同じような仲間が勝手に集まりますから。ボクシングなら、見返したいと思ってやっている選手がたくさんいる。そんな奴らがジムにゴロゴロおったら、『俺もそういう気持ち』と言って切磋琢磨して勝手に居場所はできます。だから、志を持ってやっていたらいいんです。ハナから居場所を求めるっていうのが間違ってます」

　他の誰でもなく、村田諒太の言葉だから胸に響く。1200発超のパンチを浴びた王座陥落から9か月。魂の番狂わせでは、記者たちも気持ちを共有した。歴代の担当記者も駆け付けた引退会見。涙はなく、時折笑いを交えた明るいものとなった。「ボクシングに出会いを与えてもらった。恩師ができて、本当の仲間ができて、感謝する方々ができた」。最後の温かな拍手には、感謝と少しの寂しさが含まれていた。