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創部64年目でなぜ躍進? 大学選手権初出場、東洋大ラグビー部が貫く“凡事徹底”の精神

いつも笑顔が絶えない福永監督だが、スクラムを見つめる表情は勝負師のもの【写真:吉田宏】
いつも笑顔が絶えない福永監督だが、スクラムを見つめる表情は勝負師のもの【写真:吉田宏】

笑顔の大切さを思い出させた恩師の言葉

 指揮官が語った“笑顔の確認”は、冗談でもおちゃらけでもない。飛躍のシーズンの開幕戦から“笑顔”がチームの力になった。

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 挑んだ相手はリーグ戦王者の東海大だったが、1部の経験すらない東洋フィフティーンは、キックオフから怯むことなく王者に襲いかかる。開始7分にWTB(ウイング)モーリス・マークスが先制トライをマークして常勝軍団とスタンドの度肝を抜くと、一度は逆転されるも前半終了直前に再び逆転。タックル一発一発が確実に相手を捕らえる。昨季まで2部暮らしが続いたチームとは思えないクオリティ。その戦いぶりにはリーグ戦王者に対する萎縮も、恐れもない。15人が常に仲間に声をかけ合い、ボールを持てば個々の選手に迷いがない。チーム全員が自分たちのプレー、戦術、そして仲間を信じている。後半も競り合う展開を続けたが、残り4分の逆転トライ(ゴール)で王者に3点差(24-27)で競り勝った。

「(笑顔の確認は)今年からです。私が大学3、4年生の時の部長だった浅野清先生が今年亡くなられたんですけど、いつも笑顔だけは忘れるなと話してくれた。お悔みに行った帰りに、人生もですけどラグビーでも真剣になればなるほど笑顔が大事だという先生の言葉を思い返して、そりゃそうだなと感じました。自分の中でそこは大事にしようと、春シーズンの途中からやり始めたんです」(福永)

 東洋大学経済学部の名誉教授だった浅野元部長は、病床のなかでも毎週ショートメールを交わし、チームのことや日本代表などラグビー全般に情熱を注いできた、福永が敬愛する恩師の1人だった。亡き部長の金言は、スペシャルな戦術でも斬新な指導でもない、ちょっとした儀式かもしれない。だが、指揮官は選手たちが、どんなマインドでゲームに向き合うことが大切かを模索するなかで、恩師から言われた笑顔の重要さに辿り着いた。教則本には書かれていないし、高名な指導者も教えない。だが、自分自身が現役時代から経験し、培ってきたものの中からヒントを見出し、それを試してみようという柔軟さが、この監督5年目の指導者の資質であり、東洋フィフティーンのゲームでのパフォーマンスに繋がっている。

 現役引退後は一時、明治大学でコーチを務めるなど指導経験もあったが、沖縄でビジネスを始めるなど楕円球から離れていた。母校のピッチに戻ってきた理由は2つある。

「まずは本当に恩返ししたい気持ちがありましたね。そして4年の時に優勝(リーグ戦2部)したけれど、入替戦で勝てなかったこと。(三洋電機では)様々な目標を達成できたが、大学の結果だけは(果たせずに)残っていた。納得して終わってないという思いはずっとあった」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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