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相撲は1日2食で稽古、駅伝で腕立てに「なんで?」 異なる世界の2人が共鳴、令和の指導者が持つべき“疑い”の目――青学大・原晋監督×中村親方対談

選手の能力を把握することの重要性を語った原監督【写真:舛元清香】
選手の能力を把握することの重要性を語った原監督【写真:舛元清香】

「みんな故障した」練習メニュー、選手の能力を見極めることの重要性

――若い学生や力士を預かる者として、一人ひとりの個性も見ながら指導されていると思いますが、それでも全員同じようにというわけにはいかないでしょう。子供たちと接する上で、距離感などすごく気をつけていることを教えていただけますか。

 原「うちには約50人が集まっていますけど、その中にはトップ選手もいれば、ボトムの選手もいるんです。相撲部屋でいえば、幕内力士もいるけど番付が下位の力士もいる。これが、同じ土俵で同じ練習をしたら壊れるに決まっているんですよ。我々も50人が同じ練習というわけではなく、質、量ともに変えます。その子の能力に応じた事実をきちっと把握して、そこから半歩先の負荷をかけていくわけなんですよ。

 箱根駅伝に出る選手とボトムの選手に同じ負荷をかけたら、ボトムの選手は故障してしまいます。伸びるものも伸びません。相撲だって、昨日入ったような力士も横綱と稽古したら壊れて、もう終わりとなってしまう。だから僕は相撲界においては、体重別、体格別、身体能力別に分けたトレーニング、稽古を課した方がいいと言っているんです。そのためには土俵って1個じゃダメで、2つか3つは必要なんじゃないですかね」

 中村「監督のお話を聞いていると、監督が相撲の指導をしたら横綱を育てるんじゃないかなって思えます。自分はまだ結果も出していないので何かを言える立場ではありませんが、強度の強い負荷を掛け続ける稽古が、全て成長につながるのかな、と思ったことがあるんです」

 原「大きな間違いですよ。私が青学の監督になりたての当時、私の出身の中国電力に五輪や世界陸上で日の丸をつけた選手が複数いて、その練習を見せてもらいました。それで、その通りの練習を学生にやらせたんですよ。そうしたら、みんな故障です。これでは伸びません。これは違うんだなと思いました。やはりその子の技術、能力をきちっと把握して、手の届きそうな半歩先のトレーニングを課すことによって成長させ、何年か経ってようやくオリンピック選手と近いトレーニングができるようになるわけなんです」

 中村「怪我をしてしまうと、痛い、つらい、そして怖いという気持ちが強くなってしまう。まだまだ成長段階の力士はこんな意識を常に持っているわけだから、相手を倒すのではなく自分を守るための稽古になってしまうんじゃないかと。

 強い人に勝つためには、日頃から強い人に向かって行く稽古をします。ですが、その分怪我のリスクが大きい。原監督の話を聞いていて、11年のうちに8回優勝したというのも、監督の生徒それぞれの能力を見抜く分析力、洞察力がすごいのかなと。だからそうした部分は自分も見習いたいです。今、うちの部屋には十両が2人、幕下が1人、三段目が4人、序二段に1人いますけど、稽古は全員一緒ではなく、それぞれの力士の能力を見抜いて、段階に分けてほどよい負荷をかけながらやるのがいいのかなと」

 原「弱い力士は絶対勝てないんですよ。常に負けっぱなしで、コロコロ転がって受け身を覚えるだけ。だから勝たせてあげないとその力士も面白くない。勝つことによって自分の型ができます。体格も大きくなって技を磨き上げたら、十両の力士とやっても自分の型を持っているから勝負になるんです。でも、ただ当たってやられてしまってばかりでは型も何も持てないでしょ。それでは強くならないですよ。勝ち負けがあって初めて切磋琢磨する。勝つ喜びを教えてあげるためには、そういうことが必要だと思います」

 中村「向かっていく気持ちは絶対に必要ですが、同じようなレベルの力士同士で稽古をし、勝つことや負けることからいろいろな技術を身につけ、できないことができるように成長させ、成功体験を持たせながらやるということが大事なんですね」

 原「やっぱり、相撲界の発想的に、上の者とぶつかっていくから下の者が強くなるというのが基本的な考えなんですか?」

 中村「そうした厳しい稽古で鍛えられた方々が、今では親方になっています。以前、八角理事長(元横綱・北勝海)が千代の富士関に胸を出してもらっている映像を見たことがあるのですが、非常に厳しい稽古でした。 今の力士たちはとてもついて行けませんし、そんな指導をしたら全員いなくなってしまうでしょう(笑)。もちろん私自身も到底ついて行けませんし、真似もできないと思います。それほど過酷な稽古だったのだと思います。 今の親方衆は本当にすごいと思いますが、時代も変わり、昔のような厳しい稽古環境を作るのは難しくなっています。また、最近の子供たちの体つきも昔とは違ってきていると感じます」

 原「確率だと思うんですよ。八角理事長が横綱に上がったのはそういう身体があったからこそで、いわゆる“砂金”が出たようなものだと。陸上界でもよく言われるんですよ。昔の選手が“俺たちの時代は100キロ走った”とか“50キロは当たり前だよ”なんて言うけど、今の子にそんなこと言ったってできない。砂金はなかなか出てこないんです」

――やはり身体能力が高い人が有利ですか?

 中村「身体能力が高い人ほど、成長のスピードは速いです。ただ、身体能力が高くても、しっかりとした環境と努力がなければ強くなれません。どちらか一方ではなく、両方が必要です。 もちろん、才能がない場合は成長に時間がかかることもあります。しかし、やる気さえあれば、才能がなくても適切な環境でしっかり育てたいという思いを持っています」

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