男女で分かれる更衣室にどう対応? スポーツとLGBTQ、競技団体によっては未だ「感度が鈍い」
身近なLGBTQの課題「男子、女子で分かれている更衣室はどうする?」
井本「なるほど。身近なLGBTQの課題を例に挙げると、更衣室問題がありますよね。これは障がいの有無に関わらず上がってくる問題ですが」
河合「日本のスポーツ施設は、更衣室が『男子』『女子』で分かれていますからね。海外の施設で見たことがあるのですが、更衣室が個室の場合、性別は関係なく利用できるので問題ありません。しかし、全国すべての施設を個室に改装するには多額の資金がかかるので、現実的な解決策とは言えません。でも、会場や利用者のキャパシティの事情で十分な対応ができなくても、できるだけ希望を叶えるために話し合い、別の場所を用意するなどの対応はできますよね。ハード面の環境はガラリと変えられなくても、ソフト面でカバーできることはたくさんあります。頭からそれは無理ですとか、ルールですからやりません、などと断じてしまうから進むものも進まない」
井本「今、国の政策誘導の下、障がいのある方々がスポーツをできる環境を増やそう、という動きが進んでいます。実際、河合さんやJPCが今、ソフトの面で取り組まれていることはありますか?」
河合「民間の業者や競技団体と協力しながら、公共のスポーツ施設を運営するという施策を進めています。例えば、障がいのある方々のスポーツプログラムを実施する、障がいのある方を指導できる指導員を日常的に配置するといった条件を、スポーツ施設の管理者条件に組み込むことで、実現に向けて取り組むという具合です。しかし、一方で『障がいのある方々に施設を貸すのは全然いいけれど、そのことで収益が下がるのは困る』と言う人もいます」
井本「驚きました。国や都道府県は収益を度外視しても、より多くの人がスポーツをする機会を作りましょう、という話をしているのですが……。参加できない方が参加するようになれば、いずれ利用者は増えていきます。そこが見えていないとは残念な発言です。私自身、今、スポーツ界のLGBTQの問題や環境・気候変動問題に取り組んでいますが、競技団体によってはこれらの問題に対する感度が非常に鈍いと感じます。感度が鈍いのは、そこに重要性を感じていないからです。例えば『日本のスポーツの実施率が低いのは子どもが減り、人口が減っているからだ』としか考えられない方は現実にいて、ものすごく憂います」
河合「スポーツを通じて、誰もが生き生きと生きていけるような社会を作ろうとか、スポーツ人口を少しでも増やしたい、スポーツの実施率を上げたいというのであれば、ジェンダーや性的指向を問わず、スポーツができる環境を整えていこう、という声があってしかるべきですよね」
井本「そうなんです。問題の本質に思考が及ばない方たちがガバナンスを行っていたら、必要な評価も、進捗・確認も評価もしないので、いつまでたっても目標を達成できません。まず、今までのような『スポーツ界を盛り上げるためには、メダルの数が一番大事』という価値観では、今後のスポーツ界は国民の理解や応援を得ることはできないと思います。スポーツ施設での施策に話を戻しますが、そもそも、施設に派遣する運動指導者の方に対し、障がい者に対する運動指導のトレーニングは行われているのでしょうか?」