「月経は来ない方がいい」という風潮 女子選手は“女性”を捨てなければ勝てないのか
男子選手とは異なる悩みを抱える女子アスリートの体について考える「THE ANSWER」の連載「私とカラダ」。アスリートと医師という異なる立場から、月経との付き合い方、ピルの服用の是非など、競技に打ち込む女性に起こる問題について話してもらった。全3回にわたる最終回は「女性とスポーツの価値」について聞いた。
「無月経のリスク」を知らずにいる危険、「こんなはずじゃなかった」と思う前に―
男子選手とは異なる悩みを抱える女子アスリートの体について考える「THE ANSWER」の連載「私とカラダ」。今回は元競泳日本代表で五輪に2度出場した伊藤華英さんが登場し、日本体育協会公認スポーツドクターの産婦人科医・江夏亜希子氏(四季レディースクリニック院長)と対談。アスリートと医師という異なる立場から、月経との付き合い方、ピルの服用の是非など、競技に打ち込む女性に起こる問題について話してもらった。全3回にわたる最終回は「女性とスポーツの価値」について聞いた。
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伊藤さんは北京五輪で月経が重なった経験を持つ。当時の話については昨年に自身のコラムでもつづり、反響を呼んだ。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に務める傍ら、スポーツ庁で指導者、東京都では指導者、保護者などを対象に「女子選手と思春期」をテーマに講演も行っている。一方、江夏氏は自身も大学時代まで水泳に打ち込み、02年から競泳日本代表のチームドクターを担当。女子選手と体のサポートを手がけてきた。伊藤さんとは代表チームで出会い、現在もかかりつけ医として親交がある。そんな2人が明かした、スポーツ界における女性問題の現状とは――。
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――陸上、体操といった競技では初経が遅れてしまうということをお伺いしました。そもそも、その理由は何なのでしょうか。
江夏「体操に関していえば、早くから競技を始めて体重・体脂肪が増えないままでいると身長も伸びない。“身長スパート”で1年で身長が20センチくらい伸びると、その翌年くらいに月経が来ると言われています。体操は小さい方が有利と言われているせいか、“身長スパート”が来ないような練習をさせている場合もあると聞きます。でも、田中理恵選手のように長身の女性らしい体格で活躍できる選手が出てきました。ある程度大きく育って、大人の魅力を生かした演技ができる方がいいという世の中に変わってほしいですね」
伊藤「そうですね。体操選手もだんだんと大きい選手が増えてきましたよね」
江夏「陸上も競技を早く始めすぎると、同じことが起こりますが、小さい方が有利とはあまり言われません。マラソンは30歳くらいでピークが来るので、日本のメダリストたちは大学までそんなに目立っていない選手が多い。社会人で伸びているんです。中高で月経が止まるほど体を絞られていた子たちは脱落していくのかもしれません」
伊藤「若い時に伸びてしまうと、その後が伸びにくい競技かもしれないですね」
江夏「私自身は、中学生の先生は中学で、高校生の先生は高校で、結果を出さなきゃというのがよろしくないなと感じることもあります。スポーツクラブに所属して、学校が変わっても一貫して指導されている人たちの方が伸びるという意見もあります。ある有名な陸上選手は『あなたは大学以降も伸びなきゃいけない人だから、中高は頑張りすぎないように』と当時の指導者から言われていたという話も聞きました」