「生理ってそんなにハードルが高い話?」 陸上・新谷仁美がありのままに語る選手の生理
無月経になった過去「私にとって生理がなくなるのは命がなくなったのと同じ」
高校卒業後、実業団に進んだ新谷さんは、その後もトップアスリートとして走り続けた。2012年にはロンドン五輪に出場。しかし、25歳の誕生日を迎えた翌月の2013年3月、生理がとまった。
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「私のなかでは、無月経=ケガです。アスリートはケガをすると競技がストップしてしまう。だから、常に危機感を持っていました。
無月経になり、500円玉ハゲになるんじゃないかってぐらい悩んだし、目が覚めたら生理がきていた! という夢まで見ました。
私にとって生理がなくなるのは、命がなくなったのと同じ。すごく怖かった」
無月経になった当時の新谷さんは、身長165センチ、体重40キロ。体脂肪率3%。ドクターの診断は過度な減量による無月経。しかし、真の原因は別にある、と新谷さんは振り返る。
「ロンドン五輪後、今も抱える右足の足底腱膜炎になってしまった。これがそもそもの始まりです。そこで、私は『体が軽くなれば足への衝撃も軽くなり、痛みが減るかもしれない!』と浅はかな考えから減量してしまった。
問題はケガそのものではなく、ケガによるメンタル面にあります。あまりにも結果にこだわる私は、ケガをしても医者にもいかず、周囲にも何も相談せず、減量に走ってしまったことです。
ケガを隠すと合わせてメンタルも崩壊するんですね。気づかないうちに心の闇がどんどん広がり、無月経につながってしまった」
メダル獲得にこだわり、挑んだ2013年8月の世界陸上モスクワ大会では思うような結果を残せず。同年12月、引退を決めると、生理は再開した。
「この経験から、結果を出すことと生理があることは、ともにこだわらなければいけないと気付きました。今はチーム、家族、すべての人に自分の状態を包み隠さず共有しています。
生理は『体重が重いからある。痩せているからない』という単純なものではありません。日ごろから心のケアをしっかりすること、周りに助けを求められる、助けてもらえる環境にいるかどうかが一番大事です。
男性の指導者のなかには、『生理について選手に聞くことでセクハラだと感じさせる心配がある』という声もあります。とはいえ、選手が抱えている痛みが、ただの腹痛なのか、生理によるものかは、見た目では判断できない。
でも、困っている様子が見られたら、『大丈夫か?』と声をかけることはできます。そこで、『大丈夫です』と返ってくればそれでよし。『手を貸してください』と言われたら次の行動に移せばいい。
まずは、『大丈夫?』と聞く。そうやってコミュニケーションがとれる環境になれば、生理不順はなくなるのではないかな、と思います」
新谷さんはこれまでの陸上人生のなかで、「生理が競技に影響したことはない」と話す。とはいえ、生理による体調の波がなかったわけではない。
「20代までは、生理の3日目まではむくみやすかったり、腰がだるかったりという程度でした。ところが、30代に入ってから急に激しい痛みに変わった。一度、気を失うぐらいの痛みにのたうちまわり、救急車を呼ぶことも考えました。
そのときは、一人暮らしだし、病院へ行くのに何を用意すればいいかわからなったのと、汗をひどくかいて真っ裸だったので(笑)ガマン。2回、同じような痛みに苦しんだので、ドクターに相談し、痛み止めを処方してもらいました。
以来、生理前から痛み止めを飲んでいますが、今ではちょっとしただるさや痛みを感じる程度です。しんどいはしんどいけれど、走りにはそれほど影響しません」