連載「ベースボールの現在地」#8、アフリカで「甲子園」を開催する日本人

　野球のワールド・ベースボール・クラシック（WBC）が開幕。侍ジャパンに大谷翔平投手（エンゼルス）ら豪華メンバーが集結し、日本は大いに盛り上がっている。一方で、世界の野球に目を向ければ、2024年パリ五輪は競技から除外。予選の出場国は、209か国だったカタール・ワールドカップ（W杯）に対し、WBCは28か国に留まるなど、競技の普及・振興、国際化における課題も少なくない。

【注目】応援のプロが楽しみにする『チアスタ！』での交流　チアリーダーHARUKAさんの想い

「THE ANSWER」ではWBC開催期間中「ベースボールの現在地」と題し、海外でプレー、普及活動してきた野球人の歩みや想いを連日発信。注目される数年に一度の機会だからこそ、世界の野球の今を知り、ともに未来を考えるきっかけを作る。第8回は「アフリカで『甲子園』を開催する日本人・後編」。

　一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構（J-ABS）の代表理事・友成晋也さんは、1996年から現在までアフリカで普及活動に尽力。58年間の人生の多くを注いだ野球の記憶をたどる。後編では東アフリカのタンザニアで開催する「甲子園」に込めた想い、松井秀喜氏との協力関係に至るまでに人生を懸けた背景などを語ってもらった。（文＝THE ANSWER編集部・浜田 洋平）

　◇　◇　◇

　実は、アフリカにも「甲子園」が存在する。

　硬式球を弾き返す甲高い金属音。14～17歳のセカンダリースクールに通う球児たちが白球を追う。「日本の高校野球の地方大会1回戦で勝てるかどうかのレベル」と友成さん。昨年12月には史上初の柵越え本塁打が2本も誕生した。選手たちは“甲子園1号”に大盛り上がりだ。

　通称「タンザニア甲子園大会」。2014年に出場4校でスタートし、800キロ離れた地からも参加する。正式名はセカンダリースクール全国野球・ソフトボール大会。昨年12月は第10回の記念大会だったため、特別枠として招待された南スーダン1チームを含め、10校が参加した。ソフトボールの女子は5校。男女計260人が目標を持って熱中した。

　友成さんは1996年、JICAガーナ事務所の所員として首都・アクラ市に赴任。約30人の自称「ガーナ・ナショナルチーム」と出会い、JICAの仕事と並行してプライベートで代表監督を務めた。前編で紹介した通り、「野球をすれば勉強の成績が上がる」を実証し、1999年まで普及活動に尽力。30人だった野球人口は1000人を超え、2012年に赴任したタンザニアでも、3年間で次々と学校に普及させた。

　なぜ、「甲子園」の名がつくのか。野球・ソフトボールの五輪競技からの除外が大きく関係していた。2008年北京五輪を最後に以降2大会は開催されず。アフリカ各国の野球連盟などから、友成さんにメールが届いた。

「うちの国でも野球が死んでいってしまう」

　野球人口は落ち込んでいった。友成さんは世界的祭典の影響力を明かす。

「五輪の存在が全てでした。彼らにとっては高校球児の甲子園のようなもの。アフリカ予選は五輪出場に直結するので、みんな真剣に頑張っていました。そもそも正式な国内大会もないので、目標がなくなって野球をやる意味がなくなってしまうんです」

　友成さんはガーナ代表監督時代、2000年シドニー五輪のアフリカ予選（全6か国）に出場し、準決勝に進出した。「国の代表として国旗をつけて戦う。彼らにとってこれは何よりも誇りです」。同時に、選手たちが代表を目指す理由はもう一つ。アフリカ予選の際、国から出される補助金だ。

「あの貧乏なガーナが出してくれます。五輪種目だからです。日当が5000円くらい。当時、ガーナの平均月給が1万円ほどでした。3週間の遠征に行けば、年収になります。さらに開催国が宿泊先と食事を用意してくれるので、お金が貯まる。正直、選手はアフリカ予選に出ることが目標だったと思いますね」