連載「ベースボールの現在地」#7、アフリカで「甲子園」を開催する日本人

　野球のワールド・ベースボール・クラシック（WBC）が開幕。侍ジャパンに大谷翔平投手（エンゼルス）ら豪華メンバーが集結し、日本は大いに盛り上がっている。一方で、世界の野球に目を向ければ、2024年パリ五輪は競技から除外。予選の出場国は、209か国だったカタール・ワールドカップ（W杯）に対し、WBCは28か国に留まるなど、競技の普及・振興、国際化における課題も少なくない。

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「THE ANSWER」ではWBC開催期間中「ベースボールの現在地」と題し、海外でプレー、普及活動してきた野球人の歩みや想いを連日発信。注目される数年に一度の機会だからこそ、世界の野球の今を知り、ともに未来を考えるきっかけを作る。第7回は「アフリカで『甲子園』を開催する日本人・前編」。

　一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構（J-ABS）の代表理事・友成晋也さんは、1996年から現在までアフリカで普及活動に尽力。58年間の人生の多くを注いだ野球の記憶をたどる。前編では、一人の少年の言葉によって野球の本質を知った経験などを語ってもらった。（文＝THE ANSWER編集部・浜田 洋平）

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　灼熱のガーナにも野球があった。「キャッチボール！」。号令のもと、でこぼこの野原に散らばっていく子どもたち。2列で等間隔に並ぶことはない。あっちこっちから軟式ボールが飛び交い、悪送球をすれば責任を押し付け合う。「どこ投げてんだ。お前が取りに行け」「今のは捕れただろ」。喧嘩もしばしば。試合前の整列はない。

「これがアフリカあるあるなんです」。日本の常識から大きく外れた光景だった。公用語は英語。1996年、当時32歳の友成さんはゼロから向き合った。

「ボールが当たったら危ないでしょ。周りに配慮して距離を考えなきゃ。それとね、野球はミスをするのが当たり前のスポーツなんだよ。ミスを互いにカバーする。相手が暴投したら取りに行ってあげる。暴投した人は謝ろう。謝った声が聞こえたら、『OK！』って返す。このコミュニケーションこそがキャッチボール。野球で大切なことに繋がるんだ。野球は相手と審判がいるからできる。だから、感謝とリスペクトを伝えるために『礼』をしよう」

　自身は10歳から野球を始め、高校、大学は慶応で内野手としてプレーした。海外出張の多かった父の影響で外国に興味を持ち、海外事業を展開する不動産会社に就職。しかし、バブル崩壊などで方針転換され、職場は国内にとどまった。

　そんな中、雑誌で見つけたJICAの社会人採用に応募して転職。初めての在外事務所勤務が西アフリカのガーナだった。

「アフリカに野球はないだろうと思い込んでいました。だったら、キャッチボールの面白さを伝えたいなって」

　初めての海外赴任に段ボール1箱分の野球道具を携え、未知の国へ飛んだ。ところが、実際は野球があったのだ。出会ったのは、30人ほどの自称「ガーナ・ナショナルチーム」。実力は日本の中学生レベル。17～25歳が集まった国内唯一の野球チームだった。友成さんは現地の在留邦人による日本チームに招かれ、ガーナ対日本の親善試合に参加。活躍すると、ガーナチームからコーチを打診され、引き受けた。

　道具が簡単に手に入らない貧しい国。スポーツをする土壌は少ないが、国民性は向いていた。

「なんだかんだ言って、ダンスやお祭りが好きなんです。それと一緒でスポーツも大好き。でも、道具がなくて、できるスポーツが少ない。だから、サッカーが圧倒的に広がっています。学校に体育の授業はあっても、先生には体育の知識がない。だから、授業は『サッカーをやっとけ』という感じです」

　そこで学校に目をつけた。「野球道具を保管できる。その子が卒業しても、次の学年も野球ができます」。日本で寄付を募り、道具を運搬。くたびれた中古品でも喜んでくれた。かろうじて、「野球は学校でやるスポーツ」というのが定着していった。