世界で関心が高まるベジタリアンアスリート 植物性食品はパフォーマンスにどう影響?
プラントベース食の潜在的栄養の問題
さて、具体的な実践法ですが、プラントベース食の潜在的栄養の問題として挙げられるのは、エネルギー不足、タンパク質不足、そして微量栄養素不足です。
なかでも、アスリートが最も気になるのは、筋肉や血液のもととなるタンパク質をいかに取るかだと思います。
筋肥大や筋肉量を維持するには、筋肉の材料となる必須アミノ酸と、筋タンパク合成のスイッチの役割をする、ロイシンを一緒に摂ることが重要です。
これらは動物性食品に多く含まれるため、「植物性食品しか食べないアスリートは筋肉量が増えないのではないか?」と思われがちです。
しかし、ベジタリアンのアスリートと非ベジタリアンの若い男性に、12週間、それぞれ大豆プロテインとホエイプロテイン(1.6g/kg/日)を摂取してもらい、週2回のレジスタンストレーニングを行った研究では、両群とも全身の筋肉量や脚の筋肉量に差がなかった、という結果が出ています。つまり、タンパク質の量が十分に取れていれば、植物性タンパク質でも筋肉量を増やすことができる、ということです。
一方、課題も残ります。植物性食品だけで動物性食品と同じ量のタンパク質を摂ろうとすると、どうしても食べなければいけない量が増えてしまいます。
例えば、20gのタンパク質を摂ろうとすると、肉ならば100g食べればOK。ところが植物性の食品に換算すると、大豆(ゆで)で140g、ひよこ豆(ゆで)200g、もめん豆腐1丁(300g)、ご飯1kg、じゃがいも(蒸し)1kgに相当します。
アスリートにとって、「量を食べる」ことは、それだけで心身の負担になりますし、人によってはエネルギーの過剰摂取にもつながります。しかも、十分なタンパク質量を摂れているか否かは、専門家にみてもらわないと正確にはわからない。多くのベジタリアンアスリートにとっては、そこがネックになります。
微量栄養素も同じことが言えます。アスリートの場合、微量栄養素のなかでも、貧血に関わる鉄やビタミンB12、骨の健康、筋肉の収縮に関わるカルシウム不足の影響が心配されます。さらに、鉄ステータスにおいては、一般の人よりもアスリートの方が悪く、特に女性はよくないというデータが出ています。
全米医学アカデミーによると、ベジタリアンの鉄の推奨量は、動物性食品を食べる人の1.8倍です。そう考えると、ただでさえ不足しがちなアスリートの場合、しっかり鉄が摂れるよう、かなり意識して食事を考える必要がある、といえます。