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「他のスポーツは日本国籍を持てば平等なのに…」 ラグビー界で賛否、導入される“日本人選手優遇”新規約の問題点を検証

新規約に残る疑問 問題点は2つ「戦力格差の拡大」と「30キャップ基準」

 では、今回の規約の修正は「普及」「育成」という大義の下で諸手を挙げて歓迎出来るのかと考えれば、疑問や課題もある決定でもある。個人的な意見ではあるが、大きく2つの問題点が挙げられる。

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 1つ目は、先にも触れているチームの戦力格差が広がることへの懸念だ。ディビジョン1をみると、いわゆる下位チームが留学生ら海外出身のカテゴリA選手を多く獲得して、上位チームとも好ゲームを展開出来たことが、試合観戦、つまり観戦チケットを購入する価値を高め、リーグのクオリティーを上げることにも繋がっているのは明らかだ。勿論、強化の“あるべき姿”は獲得した選手をコーチがいかに育成出来るかだが、いい選手を多く獲得することが成績にも大きく影響している現実もある。良し悪しの意見が様々にあるだろうが、下位チームが少しでも短期間で上位とも十分に戦える戦力を整えられるかも、事業化を進める上では重要だ。

 それがもし、カテゴリAで起用してきた選手が、若干とはいえ出場人数に制約がかかるA-2に“格下げ”されることになれば、現状のチーム間の実力バランスがどこまで保てるのかは未知数だ。ブリーフィングで東海林専務理事は「A-2というカテゴリでも十分な出場枠がある。A-1に分類される選手の実力アップも進んでいる。ゆえに今回の議論の中で、リーグのレベルが下がる懸念はチーム側からも提示されていない」と説明したが、おそらく起用出来るピッチ上の15人、ベンチを含めた23人の戦闘力が現状よりも高まることはないだろう。同専務理事は否定的だが、もし実力格差が広がれば、リーグの活性化を減速させ、商品価値を下げてしまうことにも繋がりかねない。このような不安材料を回避するには、追加カテゴリの本来目指している大枠を崩さない範囲で、例えば2シーズン後にはA-2に分類される海外出身選手への特別措置を講じるなどの柔軟性を持った枠組みを設けてもいいだろう。

 リーグ側の視点から考えると、このような現在の戦力バランスに影響を及ぼす可能性や、下位チームの戦力低下というリスクがあったとしても、A-1カテゴリのような日本選手のプレー時間を確保し、さらに伸ばしていけるメリットを優先させたとも解釈していいだろう。批判の声が挙がったとしても、日本選手に配慮した新たな枠組み策定を急いだ判断は間違っていない。

 2つ目の問題点は、「30キャップ」に関するものだ。世界の強豪国では100キャップを突破する選手もいる一方で、それはあくまでも限られたレジェンドだけのはなしだ。多くの代表経験者にとって、カテゴリA-1の優遇措置が認められる30キャップを取得するのは容易なことではない。実際に今も現役でプレーする日本代表経験者の中で、A-1、A-2両カテゴリに分類される選手で30キャップ以上を持つのは20人に満たない。カテゴリA-1の対象となる海外出身者に限れば、現役ではFLリーチマイケル(東芝ブレイブルーパス東京)ら3人に過ぎない。LOワーナー・ディアンズ(BL東京)、代表主将も務めたFLピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)すら30キャップは満たしてないのだ。この特例は、むしろこれからキャップを積み上げていく新たな外国人選手層を対象としたルールと考えていいだろう。

 リーグ代表者会議、分科会の審議の中では「20キャップではあまりに容易にクリア出来る選手が増えていく」「そもそも30キャップの特例も必要なのか」と様々な意見がある中で、最終的にはメンバーによる多数決で「30キャップ以上」という条件が決まったという。この数値が妥当か否かは意見が分かれるだろうが、例えば、先に挙げたディアンズは昨季終了時点で21キャップ。順当なら、2026年シーズンには30キャップに届きそうな見込みではあるが、怪我などで代表戦出場回数を伸ばせなければ、追加カテゴリが導入される2026-27年のリーグワンでは「A-2」扱いで出場枠が狭められる扱いに成り兼ねない。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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