「他のスポーツは日本国籍を持てば平等なのに…」 ラグビー界で賛否、導入される“日本人選手優遇”新規約の問題点を検証
日本のラグビー人口問題は深刻 何にプライオリティーを置くか
そんな様々な立ち位置からの声も反映して、検討、導入の運びに至ったのが今回の追加規約だ。こちらの規約も別表で紹介しておこう。
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| 追加カテゴリ制度 | 試合出場枠 | 試合登録枠 | |
|---|---|---|---|
| A-1 | ・他協会代表歴がなく、6年以上日本の義務教育を受けた者 | 8名以上 | 14名以上 |
| ・他協会代表歴がなく、日本出生の両親祖父母を持つ者 | |||
| ・A-2資格者のうち日本代表キャップ30以上取得者 | |||
| A-2 | 他国協会代表歴がなく、日本での継続選手登録が48か月以上の者 | A-2,B,C合計7名以下 | A-2,B,C合計9名以下 |
| B | A-2のうち日本での登録が48か月未満の者 | ↓ | B,C合計6名以下 |
| C | 他国代表経験者 | 3名以下 | 3名以下 |
詳細の一部は後日発表されるが、大きな変更点は従来のカテゴリAを「A-1」「A-2」に分けることだ。日本で生まれ育った選手の大半が分類される「A-1」での登録枠を確保し、A-1の条件を満たさない海外出身選手を「A-2」として、出場、メンバー登録に制限がかけられることになる。審議・決定プロセスについて、東海林専務理事は「チーム側からのこうした制度が必要だという声に応えてリーグ事務局が素案を作り、実行委員会の場でチームに提案して、それを同委員会の分科会が議論を進めてきた。最終的には多数決での決定」と説明。「全チームの総意」だと強調している。
ブリーフィングでは、ラグビー界が尊重してきた国籍に捉われない多様性、グローバリゼーションへの影響や、海外出身選手への影響から代表強化にも弊害があるのではという質問もあった。確かに、ラグビーが他の競技に比べてユニークなのは、国籍に捉われずに代表選手になれることだ。スポーツという枠を超えて多様性、寛容さが失われていく中で、その価値はさらに高まっている。
このようなパスポート主義に囚われないラグビーの原則を考えれば、海外出身者の出場枠の議論自体が、この競技の精神性にはそぐわないという意見もある。だが、今回のカテゴリ問題で考えなくてはいけないのは、どちらの主張が正しいのかではなく、何にプライオリティーを置くかだ。国内での競技人口は、ファン人口にも直結する。日本でこの先もラグビーが行われるのか、消滅するのかという死活問題を踏まえれば、優先するべきものは明らかだろう。ラグビーの理念という観点に基づいた“批判”を認識した上で、今回新たな「線引き」に踏み切ったリーグ側の判断は評価するべきだろう。
東海林専務理事も触れているように、いやそれ以上かも知れないが、日本でのラグビーの競技人口は、かなり深刻な領域に陥っている。例えば以前にこのコラムでも何度か紹介したように、高校ラグビーは毎年恒例の花園(全国高校ラグビー大会)などで華やかな熱戦が繰り広げられる一方で、選手の一極集中化、地方大会などの参加校、登録部員数の激減を見れば深刻さは明らかだ。少子化も進む中で、野球、サッカーはもとより、バスケットボール、バレーボール等他競技もプロ化や小中高生ら未来の選手・サポーターに魅力のあるコンテンツやプラットフォームを用意し、発信し続けている。そこに、ラグビーでは海外からの選手の大量流入などにより、日本の子供たちが自分の居場所がないと判断すれば、憧れをラグビーから他のスポーツへ転じても何ら不思議はない。
普及世代は、いわばラグビーという大きな木が成長するために不可欠な「根」のようなものだ。地中に広く張り巡らされた根が失われていけば、どんなに美しい花や実を実らせてきた木でも、いつかは枯れ朽ちてしまうのは目に見えている。多様性というラグビーに欠かせない理念を尊重するべきなのは当然のことながら、いま喫緊に手を付けなければならない問題を踏まえれば、日本選手をいかにラグビーに引き付け、繋ぎ留めておくためのトライアルは、明日からでも着手するべき最優先事項なのは間違いない。
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