柔道の誤審騒ぎは「今回が特に多いと思えない」 審判の質に課題も…ここまで過熱した理由と違和感
世紀の誤審、篠原信一の言葉「誤審と言われてもメダルの色は変わらない」
もちろん、IJFも審判教育はしているし、大会前には判定基準を確認するための審判会議も行われる。ビデオ判定も導入されているし、審判の上には「ジュリー」もいる。それでも、疑わしい判定(誤審でなくても)は少なくならない。そこは、IJFの問題でもある。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
国際大会の審判レベルは低い、または日本国内の試合と判断基準が違うから、日本代表でも「技は明確に」「最後まで止めない」などが徹底される。審判の「ミス」を織り込み済みで試合に臨なければならないことも、世界の審判のレベルが低いことを表している。
「誤審」といえば、2000年シドニー大会決勝、ドイエ(フランス)戦の篠原信一が有名だ。内また透かしを認められず、相手のポイントになって惜敗。試合後「弱いから負けた」が「名言」とされ、日本チームに抗議にIJFも後に誤審を認めた(篠原の内またすかしは認められなかったが)。
10年以上たって、本人に聞いた。「ああいうことは、あると思っていた。どういう判定にも、気持ちを切らさず攻めないと。一瞬『どうして』と。それが弱さ。審判のせいじゃない」と話し「もうええですわ。誤審と言われてもメダルの色は変わらない。それが柔道だし、自分の弱さを思い出すだけで、何の慰めにもならない」と続けた。
「誤審」騒ぎで心配になるのは、審判たちだ。JOCは1日、SNS等での選手たちへの誹謗中傷について「マナーを守って」と異例の声明を出したが、審判についても同じだ。「判定がおかしいのでは」くらいなら分かるが、それが審判への誹謗中傷へと発展していく。
篠原の技を見落としたニュージーランド人審判は、日本などからの誹謗中傷で母国に住めなくなったという。SNSが発達した今なら、さらに深刻。審判を攻撃するのは、選手を攻めるのと同じだ。
もちろん、審判レベルを上げることはIJFの急務だし、発祥国の日本にもできることがあるはず。個人的には賛成しかねるが、レスリングなどのように選手側がビデオ判定を求めるシステムが必要なのかもしれない。「誤審があるのがスポーツ」という思いは今もあるが、それを声高に言えない時代になった。それでも、五輪で見てほしいのは選手の活躍。決して審判のアラを探すことではない。
(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)