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井上尚弥に悔しさを与えた有明の空席 必要なのは発言か、キャラか…「実力だけ」で叶えた東京D

試合後の会見で笑みを浮かべた井上【写真:荒川祐史】
試合後の会見で笑みを浮かべた井上【写真:荒川祐史】

井上がベテラン記者に聞いた「その選手はどういう理由で人気に?」

 井上のこだわりが垣間見えたエピソードがある。

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 2019年にジムで取材後、雑談ベースで歴代の日本人世界王者の話になった。井上は生まれる前に名を馳せた大先輩について、「その方はどういう理由で人気になったんですか?」とベテラン記者に尋ねていた。強さか、発言か、キャラクターか、それとも背景にある人間ドラマなのか。プロボクサーとして人を魅了する時、何をもって注目を集めるのか重視しているようだった。

 モンスターがデビューから心に決めているのは一つ。「ボクシングで魅せる」。小学1年からグラブをはめ、達人レベルまで磨き上げた技術と肉体。その極意だけで人の心を掴みたかった。

「プロとして見せるべきものがある。絶対に『見てよかったな』と思ってもらえる試合をしたい」

 競技の価値を高めたいからこそ、無用な話題づくりはしない。挑発にも乗らないし、自身の考えは述べても舌戦にまで発展させない。“知られざるエピソード”の提供も多いとは言えないが、ボクシングの話はたっぷりしてくれる。

 2018年にバンタム級転向。10年間無敗の王者を初回で倒し、70秒KOも飾った。ロドリゲスを悶絶させ、ドネアとはフルラウンドの死闘。ハイライトは数知れず、4団体を統一すると、昨年はスーパーバンタム級でも無双を誇り、わずか2試合で4本のベルトをかき集めた。

 東京ドーム開催は昨年初夏に持ち上がった。4万人を超える集客力はもちろん、1年先の試合まで絶対に負けないこと、世界配信による放映権料とクリーンなイメージで獲得できるスポンサー料で集まった莫大な資金。世界のファンに「見たい」と思わせる井上だから数々の障壁を乗り越え、歴史的興行が実現できた。

 大橋会長は「東京ドームで開催できるのは井上尚弥の存在、これまでの試合内容に尽きます」と繰り返す。そしてまた、先制ダウンを奪われた後の逆転TKO。伝説的な試合を続け、世界のファンを満足させた。

 年間3試合を見据え、次戦は9月頃。この日は18勝(8KO)の25歳、WBO&IBF1位サム・グッドマン(オーストラリア)をリングに上げた。これから交渉を進めていく。

「ここに駆けつけてくれた4万人のお客さん、満足する試合だったと思います。期待する試合、最高の試合をしていきたい。今後とも期待してください!」

 34年の時を超え、東京ドームに帰ってきたボクシング。その中心に立つモンスターが次に熱狂を生むのは、4か月後だ。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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