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創部64年目でなぜ躍進? 大学選手権初出場、東洋大ラグビー部が貫く“凡事徹底”の精神

早稲田大との一戦へ「こんなに幸せなことはない」

 FWのスクラムセッションでは、宮本が選手にこんな声をかけている。

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「(選手権3回戦の会場の)秩父宮は、東海大戦の時とは違っている。今度はピッチが固いはずだから」

 東洋大が秩父宮で試合をしたのは、9月11日の東海大戦のみ。12月11日の大学選手権3回戦は3か月ぶりのゲームとなるが、東海大などでも指導実績を持つ宮本は、開幕当初の9月に比べると、毎週末の連戦と気温の低下、雨が少ないことなどで秩父宮ラグビー場のピッチコンディションが変わることを経験値として熟知している。昨季まで秩父宮での試合はなく、今季もわずか1試合しか経験のないフィフティーンが知りえない情報を、しっかりと伝えている。古巣・三洋での信頼関係に加えて、大東文化大、東海大というリーグ戦優勝経験もある強豪校で指導をしてきたことも、指揮官と経験値の浅いチームとっては大きな財産になっている。

 12月4日の早明戦の結果、敗れた早稲田大が大学選手権3回戦での東洋大の相手に決まった。早稲田大を率いるのは、OBでヤマハ発動機(現・静岡ブルーレヴズ)でもSO(スタンドオフ)として活躍してきた大田尾竜彦監督だ。佐賀工高から名門チームで中心選手として活躍してきた大田尾監督だが、東洋大については「夏合宿で下のチーム同士が対戦したが、規律があり、留学生もしっかりボールキャリーしている。やるべきことをしっかりとしてくる」と、その資質を見抜いている。

 一方で、胸を借りる福永監督は「こんなに幸せなことはないですよね。それが率直な感想です。伝統校の早稲田大と対戦するのは、東洋大にとって価値があることですから」と、リーグ戦では経験できない対戦を心待ちにする。

 1部リーグに昇格したチームが大学選手権に進出したのは、2007年度の同じ関東リーグ戦グループに所属する拓殖大以来のことだ。来年で60回を迎える選手権のなかでも、異例のことになる。チャレンジャーとして挑む東洋大だが、早稲田大との一戦へ秘策もマジックもない。あるのは、毎年混戦が続く2部をようやく勝ち抜き、挑戦ばかりの今季積み上げてきた東洋大のラグビーだけだ。

 凡事徹底――。29年ぶりの1部リーグ参戦で、初の大学選手権出場というチームに失うものはない。だが、のこのこ負け試合をするつもりも毛頭ない。(文中敬称略)

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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