ディーン元気の「諦める美学」 10年間の空白、休養期間も「心の炎を消さなかった」【世界陸上】
休養で取り戻した「心・技・体」の強さ、コーチが証言「本当に大人になった」
休んだことで、心・技・体は「ピーク地点が上がった印象」とパワーアップしてカムバック。復帰後は猛者の集うフィンランドで合宿をするなど、80メートル超の好記録を次々とマークしていった。復活の過程で見えた課題は、気合が“入りすぎ”だったこと。「試合で120%を出そうとして崩れることが多かった」。持ち前の爆発力が空回りの原因になった。
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田内コーチも「私は普段通りでいいと言っているけど、ディーンは狙ってしまう。それを立て直すために(次の投てきで)また焦ってしまう」と指摘。「練習と試合で別人。自信がないから心の余裕がなかった」と明かした。
今年は冬場のトレーニングから着実に土台作り。地盤が固まり、練習通りの投てきが増えていった。4月末の大会前にはコーチに「最初は70メートル後半で行く」と低い目標を宣言し、言葉通りの投てきを体現。田内コーチは「今年は違うなと思った点ですね。自分の狙った強度を出していた。本当に大人になった。最初から一発を狙うのではなく、1投目から徐々に距離を伸ばしていくことができるようになった」と成長を喜んだ。
ディーン本人も「大人になったのかな。ここ数年はフィンランドで(怪我で忘れた感覚を)思い出すことができたのが大きい」と納得。ギラついた若手時代にはない安定感を手にした。「10年前よりアベレージは上がっている」。今年6月の日本選手権で10年ぶり2度目の復活優勝。世界ランクで世陸切符を掴み取った。
「楽しかった。やっとここに戻ってきて勝負できた」
1987年ローマ大会の溝口和洋の6位、09年ベルリン大会の村上幸史の銅メダル以来の入賞はお預け。3投目に自身を逆転し、8位に食い込んだのはフィンランドのオリバー・ヘレンダールだった。「またフィンランドに行って強くなります。『もうフィンランドに来るな』と言われるくらいに」。今大会予選を通った後、スマホには多くのメッセージが届いた。
「まだ僕が(現役で)投げていたのを知らんかったという人もいた(笑)」。それだけ長く、静かな空白だった。「そういう人が励みになって、僕をまた突き動かしてくれる。まだまだ満足ではないので、完璧の投げを求めていきたい」。30歳になり、柔らかい笑みを浮かべるディーン元気。目尻のシワは成長の証だ。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)