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「東京五輪で落下してよかった」 あの悲劇から92日、内村航平がやっと肯定できた理由

2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」を配信してきた。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第27回は、体操・内村航平(ジョイカル)が登場する。

10月の世界体操鉄棒決勝、完璧な着地を決め、渾身のガッツポーズをした内村航平【写真:Getty Images】
10月の世界体操鉄棒決勝、完璧な着地を決め、渾身のガッツポーズをした内村航平【写真:Getty Images】

一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第27回は体操・内村航平

 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」を配信してきた。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第27回は、体操・内村航平(ジョイカル)が登場する。

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 鉄棒で出場した東京五輪はまさかの落下で予選落ちしたが、10月の世界選手権(福岡・北九州市立総合体育館)は完璧な着地を披露した。東京五輪の悲劇から92日後に失敗を肯定できた理由とは。かつての絶対王者から滲み出た「泥臭さ」に痺れた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

「完璧」だけがいつも正解というわけではない。ミラーボールに照らされた華やかな試合会場。その端で、鉄棒決勝を終えた内村が頭を下げた。国際体操連盟の渡邊守成会長、福岡県知事、北九州市長に大会開催への礼を伝える。そして、一言添えた。

「五輪の予選で落ちてよかったです」

 7月24日、東京五輪はまさかの途中落下で予選落ちした。32歳、両肩痛など満身創痍の状態が続き、2020年から鉄棒に専念。「結果が全て」と当たり前に口にしてきた言葉を実行できなかった。4大会連続で出場した大舞台は、最も不本意な結果で終戦。失意に暮れた。

 団体戦に臨む後輩たちを想い、気持ちを切り替えてバックアップ。五輪後は生まれ故郷の北九州市で行われる世界体操を目指した。ただ、全身の痛みが和らぐことはない。「気持ちを押し上げることができなくて、練習もうまくいかない。着地するのもいっぱいいっぱい。(五輪以降は)一回も止まってないし、止められる次元じゃない」。心も上向かず、9月の全日本シニアは着地で尻もちをついた。

 五輪と世界選手権を合わせて前人未到の8連覇、リオ五輪男子団体は金メダル。個人総合40連勝の金字塔を打ち立て、全てを手に入れた。戦績を一覧にすれば、まばゆい文字列が並ぶ。そんな栄光に彩られた「キング」が何もかも上手くいかず、泥臭い毎日を過ごした。

 初めて味わうような苦しい日々でも、見えたものがある。

「結果以上のものを体操で出したい」

 練習はしんどい。でも、体操が好き。辞める必要はない。見る者を楽しませるという「魅せる演技」の本質を追い求めた。世界体操の予選を演じ切ると、万雷の拍手が降り注いだ。

 決勝もこれ以上ない完璧な着地を披露。離れ技は減点されたが、最後のコンマ何秒で魅せきった。「会心の一撃だと思う」。筋骨隆々の体で表現した渾身のガッツポーズ。大会中、最も大きな歓声が上がり、テレビ解説で訪れていた後輩の白井健三も中継ブースで涙を拭っていた。海外選手団も立ち上がって喜ぶ。敵も味方も関係なく、体操界の歴史に名を刻む男が3000人の視線を独り占めした。

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