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ラグビー日本代表、5-60完敗の真相 アイルランドで“ダブリンの屈辱”はなぜ起きたか

4年周期で生まれる新たな戦術の波

 この憶測には、同日に行われた試合にヒントがあるだろう。南半球勢の来襲でテストマッチが目白押しのヨーロッパで、この週末は強豪国のテストマッチ6試合が繰り広げられた。その中で、トンガを迎え撃ったイングランドが、アイルランドに似たグラウンドの横幅を広く使ったアタックを見せている。一方で、19年W杯王者・南アフリカと対戦したウェールズは、従来と変わらないゲームスタイルという印象だった。伝統的にパスで相手防御を崩していくのがウェールズのラグビーだが、W杯日本大会で他国を圧倒した南アフリカに、大型FWと接点の強さで激しい局地戦を強いられた影響もあった。

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 この2試合のパス回数を見ると、イングランドが183(トンガ68)、そしてウェールズは120(南アフリカ90)という数字だ。参考までに、常にボールを動かす攻撃的なスタイルが伝統のオールブラックスは、イタリア相手に235回のパスを繰り出して47-9と快勝している。2021年秋の国際ラグビーは、従来のキック重視のスタイルと、多くのパスとグラウンドを広く使うラグビーのせめぎ合いのようにも見えてくる。

 最先端のラグビーでは、防御システムが日々合理的、組織的な進化を続けるために、幅70メートルというスペースを攻撃で破ることが容易ではないことは明らかだ。スペースは確実に埋められている。そのために、日本代表も導入してきたキックを使った戦術で前後に揺さぶりをかけて、強固なライン防御をかわす工夫が練られてきた。この考え方が2019年W杯でのトレンドだった。

 だが、世界のラグビーはW杯ごとに、つまり4年周期で新たな戦術、勝つための術が練られ、実験され、新たな波を生んできた。これまでにも広い攻撃ラインを敷いてタッチライン際に選手を立たせる陣形は見られたが、それは逆サイドからのキックパスに備える目的が多かった。しかし2021年秋のテストマッチでアイルランド、イングランドが見せた、ボールを大きく動かし、相手防御を薄く引き伸ばして崩すラグビーが2023年への新たなトレンドになるのか――。その回答は、今月末まで続くテストマッチシリーズで見えてくるだろう。

 今回、アイルランドの術中にはまった日本だが、勝者が見せた挑戦的な戦い方を不安視する必要はないと考えたい。スピードと機動力を使ってボールを停滞させずに大きく動かし、トライを狙っていくスタイルは、伝統的には日本代表が取り組んできたものだ。大型選手のフィジカルや、キックで高いボールを競り合うゲームよりは、日本選手が戦い易いラグビースタイルへの回帰だと考えれば、スピードとアジリティーを生かした新たな戦術の可能性も見えてくるだろう。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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