なぜ、40歳になっても殴り合うのか ナイジェリア育ちの異色ボクサーが生き抜く死線
今後のキャリアはあえて描かない「先を見た瞬間、今に100%を費やせない」
試合前日の取材、「ファンにどんなところを見てほしいか。メッセージを」という投げかけにはこう答えた。
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「僕がもしファンの皆さんに贈る言葉があるとしたら、明日の僕の戦い方を見てよ。あなたがどう感じるか。その後に『バレンがこれだけやったから、私はこうやってみよう』とか、そういうふうに感じてくれたら俺は一番嬉しい。俺の目的は達成されるかな。試合の勝ち負けは俺だけのこと。でも、見てくれてる人たちにとっては自分が何をするかの方が絶対大事だと思う」
伊藤戦の先のキャリアを問われても、「大きな山の麓に立っていると想像してみてください。その先の山は見えていますか。ごめんなさい、俺は見えていないです」と独特の表現で回答。「先を見た瞬間、今に100%を費やせるとは思えない。未来は今を100%こなさないと、どっちにしても来ないもの」と目の前の試合に集中した。
「100%のバレンの良いところをぶつける。距離を詰めて殴るしかない」と臨んだ伊藤戦。しかし、いつものように飛び込めない。ノーガードで向かっていく姿も垣間見せたが、相手のスピード、技術にコントロールされ、打ち合う姿勢が影を潜めた。一方的な展開が続き、最後はロープ際で連打を浴びて8回1分17秒TKO負け。試合後のホテルで撮影されたYouTube。ファンへ向けてうなだれるようにこう語った。
「ごめんね、もう炎がなかったね。もう何て言ったらいいかわからない。勝てなかったのが本当に申し訳ないけど、それより申し訳ないことが一個あって。俺の中で燃やせる炎がなかった。相手も強かったし、技術もあったし、パンチも強かったよ。セコンドにもずっと言われていた。『あんたの言ってきたことは何だよ。出ろ』と。でも、できなかった。自分に一番ショック。何やってるんだ俺って。こんなふうになったのは初めてよ。
俺も短絡的なことは言いたくないの。(ボクシングが)本当に好きだからやっているの。プロとしての試合を見せられなくなった時は、俺は引退だなって前からずっと言っていると思うんだよ。こういう形で出ると、自分でも思っちゃうよね。『俺は年貢の納め時なのかな』とか。よく考える必要があるけど、それが今の正直な気持ちです。ごめんね、みんな。言葉にならねぇ。皆さん、ごめんなさい」
40歳で迎えた4年8か月ぶりの連敗だった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)