少数精鋭の中央大でいかに駅伝を戦うか 名門率いる藤原正和監督が胸に刻む信念と葛藤
勝ちたい気持ちはあるが「学生が本気になる」ことが大切
中央大は多くの選手を獲得し、ふるいにかけて生き残った選手で駅伝を走らせるというスタイルではなく、少数精鋭ゆえに1人も余すことなく、戦力に繋げていく必要がある。そのために実力に見合ったグループ制でレベルアップに努めている。選手とチームの成長を優先することが最終的な強さに繋がるという考えだが、やはり駅伝で勝ちたい、結果を出したいという欲もあり、そこは葛藤するところがあるようだ。
――選手に勝たせたいというよりも、自分が勝ちたい気持ちが大きくなってしまうことはありますか。
「選手を勝たせたい、もちろん自分も結果を出したいと思うことは当然あります。でも“自分が”が勝ってしまうと、どんな状態でもエースを使わないといけないと考えてしまいます。実際、今回の全日本大学駅伝では、その状況に直面しました。少し悩みましたが、最終的にはチームの状況やその後のことを考えると、エースを出してトップ3入りを目指すのではなく、シード権死守というところに目標設定を下げて戦うことにしました」
――全日本大学駅伝では吉居大和選手が当日変更で入り、中野翔太(3年)選手は補欠のままでした。
「状態が上がらない、良くない時に使うとその選手がダメージを受けるし、チーム的なダメージも大きい。『名前だけで使ったんでしょ』と他選手の信頼を失いかねません。だから、ブレーキを引くことができたのかなと思います。今、中野翔太が箱根に向けてじっくり調整できているのは、全日本を休ませることができたからですし、吉居(大和)は使いましたけど、直前までは東海林(宏一/2年)を起用するつもりでした。監督やコーチは最後まで自分たちを見ている、チームのために最善を尽くしているというのを選手たちに見せられたかなと思います」
――中央大学はスタッフ主導にはしていません。
「勝負事ですし、勝ちたいのはありますが、学生スポーツなので学生が本気になってやっていかないといけない。ですからチームがスタートした時には、『どういうチームにしたい?』『どういう結果を残したい?』とか、目標を掲げられるように自分たちでじっくり話し合ってくれと言います。こっちは『このくらいが適正目標じゃないか』と一応言いますけど、最後は学生に任せています。でも、それじゃ甘いんですよ。話し合いで持っていける風にして、実は着地点を決めておいて『こうだろう』とそこまで引っ張っていく。そこが(駒澤大の)大八木(弘明)監督は、上手いんだろうなと思います」
学生主体、選手優先の姿勢は、1枚の写真にも表れている。中央大のスタッフは集合写真には、できるだけ写らないように、入っても一番隅で写るようにしている。監督や部長が中央に写っているチームは絶対に勝てない、主役は選手、監督は脇役――。西脇工業高校の恩師である渡辺公二先生に、そう教わったからだ。
【第1回】大学駅伝の名門「中央大が終わってしまう」 藤原正和監督、就任1年目に大改革の意図
【第2回】「4年間で燃え尽きないように…」 中央大・藤原正和監督の駅伝指導と現役時代の教訓
(佐藤 俊 / Shun Sato)