「鬼鬼メニュー」の言葉が独り歩き 一山麻緒を育てた名将、妥協なき指導の原点とは
男子選手と女子選手を指導する上での違い
今、永山コーチは一山を専属的に見ているが、鈴木健吾(富士通)の練習に参加したり、合宿を一緒にこなすこともあるという。2000年にワコールで指導者を始めてから23年になるが、男子選手を見ることで、女子選手の指導との違いに改めて気づくこともあった。
「鈴木くんと同じ空間で練習をやらせていただいているんですが、男子と女子の指導の違いはけっこう大きいですね。女子選手は、プライベートな部分で相談に乗ったり、お互いに情報を共有し合うのがすごく大事になってきています。それは強い選手、弱い選手ともに同じで、ほぼマンツーマンで向き合う覚悟が必要です。一方男子選手は、女子ほどプライベートに深く入る必要がないですし、競技の部分で必要な情報を提供して、集中させていく感じですね」
ワコール時代は、すべての選手に対して目を配り、練習などでの充実感を与えていけるように苦心した。さらに日常生活での悩み、コンディションや生理など体のことも把握した。
「ワコールで監督をやらせていただいた時は、トレーナーや栄養士が女性でしたので、生理を含めコンディションについて細かくチェックしてもらっていました。生理は個人差があるので一概には言えませんが、腰が重くなったり、お腹が緩くなって走れなくなる選手もいます」
五輪に4大会連続で出場した福士加代子を始め、ワコールにはその後も安藤友香ら力のある選手が多数出てきた。選手がメディアに取り上げられると知名度が上がり、モチベーションにもつながることが多い。
一方で、言葉が独り歩きして活動に影響が出たこともあった。
「一山がインタビューの際にサービス精神から『鬼鬼メニュー』って冗談交じりに言ったのをメディアで使われたのですが、その言葉が独り歩きしてしまって、活動に影響が出たことがありました。そんな厳しいメニューを出す、怖い監督がいるワコールには行かないほうがいいという声が出て、勧誘にも影響が出たことがあったんです。人によっては面白くても、いろんな取られ方があるので、そういう言葉とメディアの怖さを私たちはよく考えて発言していかないと、と思っています」
永山コーチは、もともとメディアの露出をあまり好まないほうだが、福士、一山を育てた指導者として取材が入ることが増えた。今後も結果を出し、パリ五輪への出場が決まれば周辺はより一層、騒がしくなるだろう。