「ゴルフはお金がかかる」を覆す歩み 女子ゴルフ界話題の双子姉妹を育てた父の方針
校長先生に交渉して今も使っている「のぼり棒」と「鉄棒」
岩井家は、トレーニングにおいても「お金をかけずに」を貫いた。小1からの陸上競技練習は継続。中1の時点で頑丈な下半身はできつつあったが、ある選手の親から「岩井さんのお子さんは、下半身の割に上半身がまだまだですね」と言われたことが、気になったという。
「確かに上半身をあまり鍛えていなかった明愛、千怜はドライバーショットが飛ばない方でした。ただ、ジムに行かせるお金はない。そこで思いついたのが、のぼり棒と鉄棒を使った斜め懸垂でした。私なりに研究して、飛距離アップに大事なポイントは背筋だと確信したからです」(雄士さん)
トレーニングの場所は、子供たちが通った小学校。雄士さんが校長と交渉し、無料で使わせてもらうことなった。
「上り棒の高さは約3.5メートル。私、明愛、千怜、光太の4人で、1人ずつ交代で上がって下りるを計5回、2セットやります。待っている4人はその間、スクワットをやっています。このメニューは今でも続けていて、明愛は足を使わず腕だけで上っています」(雄士さん)
自宅にはぶら下がり健康器があり、子供たちは時間を見つけては、懸垂トレーニングをし、走りこんでもいる。「トレーニングも練習も気が乗らない時はありますが、やらないと強くなれないので、音楽をかけたりして、自分を盛り上げています」(千怜)
こうした工夫と努力の成果で、姉妹は実力をさらに伸ばした。明愛は小6で地元サッカーチームに入り、右サイドバックとして活躍。中学でも続けて「なでしこジャパン」を目指すことも考えたが、最終的にはゴルフと陸上の継続を選択。2人とも陸上で埼玉県大会に出場有望選手だったが、高校入学時には、躊躇なくゴルフ一本に絞ることに決めた。
「やっぱり、ゴルフがいいと思いました。小さい頃からやっていて、両親が苦労していたことも知っていたので、ここで止めたら、もったいないという思いもありました」(明愛)
「自分では陸上でインターハイに行けるイメージがありませんでした。でも、ゴルフでは明愛と一緒に日本ジュニアに出られていたので、お互いが打ち合わせなしでゴルフを選びました」(千怜)
進学した埼玉栄高時代では、ともに数々のタイトルを手にし、コロナ禍で今年6月に延期された2020年度最終プロテストに合格。遠征、ツアー出場などで、家計はさらに苦しくなっていたが、両親にとっては、姉妹そろっての一発合格が何よりもうれしかったという。
「当日はドキドキしていて何も食べられないほどでした。コースの駐車場で待っていて、それぞれが報告に来るたびに号泣しました。本人たちは泣いていなかったのに」(恵美子さん)
「どちらかが通って、どちらかが落ちるなら、どっちも落ちた方がいいとさえ思っていました。でも、同時にスタートラインに立てることになり、安心しました。今後も家族全員が協力し合って頑張っていきます」(雄士さん)