偏差値71、東大志望の山岳男子に聞く「なぜ君は山を登るのか」 山の甲子園に挑む夏
全国の常連であり続ける理由、潜在能力を最大化する“自分たちの強み”
では、いかにして他の強豪校を押しのけ、全国の常連であり続けられているのか。
象徴的なシーンは、昼休みにある。午後12時20分。3時間目終了のチャイムが鳴ると、里見監督が生物の先生であるため、理科講義室に一人、また一人と集まってくる。弁当をつつきながら、三田と内山の3年生を中心にペーパーテスト対策の天気図はもちろん、事前に配られるインターハイ本番の地形図などの読み方をレクチャーしながら、議論も交わす。
山を登り始めたら、右手には何が見え、左手には何が見えるのか。進路を取る際に目印となるべきものは何か。平面の図を眺め、4人でイメージを膨らませる。表情は真剣そのものだ。その理由を三田はこう話す。
「登山は準備で決まるものです。開会式が始まったら、知識はもう増えない。体力だってそう。登り始めて体力がつくこともない。特に、自分たちは知識で負けていられないですから」
数十分の昼休みでも成長できる集中力。難関を突破して偏差値71の名門校に合格し、培ってきた長所でもある。経験、体力で劣っても知力を支えとした準備を怠らない。自分たちの強みを知り、潜在能力を最大化して勝負する。それが、山で勝つ武器となる。そして、5月に行われた群馬県高校総体で新島学園ら強豪校を抑えて優勝。インターハイの切符を掴み取った。
勉強と部活。進学校らしく、互いに生きる“副産物”もある。限られた時間で発揮する最大集中を授業にも生かし、三田は塾に通わず、「家でやらなくてもいいように授業に集中している」と言い、それで理系200人で学年7位に入る成績を誇る。受験に向けても「まずは夏に向けて頑張って、勉強はインターハイが終わった後に」としっかりと計画を立てている。
また、里見監督はこんな話も明かす。「とにかく真っすぐで、純朴で、気持ちのいい子たちばかり。山に対して、上を目指そうとすることで価値観も変わる。大学選びも、地元の大学で……と思っていたような子が視野が広がり、東京の大学に行ってみたいということだってあるんです」と目を細める。
第100回を迎える高校野球の夏の甲子園を前に“山岳男子”が挑む「山の甲子園」。野球部やサッカー部のようにホームランを打ったりゴールを決めたりすれば、誰かが歓声を上げるわけでもない。それでも「誰かに見てもらいたくてやっているわけじゃない。自分が全国と山にどれだけ通用するか」と三田は話す。孤独を仲間と戦い、分け合う競技でもある。
昨年は過去最高の11位に入りながら、目指していた上位入賞は叶わず、先輩が悔し涙を流す姿を見てきた。「出るからには優勝」と4人は口を揃え、最高の絶景を拝むために夏の山を登る。