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勝利至上主義の高校ラグビーに一石 監督の指示「禁止」、KCリーグ創設の狙いとは

ラグビーの精神を選手たちに伝えるアフターマッチファンクションの様子【写真提供:松山吾朗】
ラグビーの精神を選手たちに伝えるアフターマッチファンクションの様子【写真提供:松山吾朗】

試合後の歓談を通して伝えたいラグビー精神

 リーグの決まりごとには、選手へ向けた配慮と同時に指導者への思惑もある。敢えて選手への指示を慎むことを明文化したのは、高校ラグビーの監督、指導経験者の多くが感じる“指導しすぎる”傾向を、このリーグでは減らそうという狙いがある。ラグビーは、試合が始まれば監督ではなく、選手たちが判断、決断してプレーするのが伝統だ。最近では、レシーバーや給水係を使っての“ベンチ采配”が当たり前になっているが、KCリーグでは、指導者ではなく高校生たちが自分で判断し、選択することを尊重しているのだ。

 アフターマッチファンクションについては、ラグビー経験者以外はあまり馴染みのないものかもしれない。試合後に両チームが、グラウンドにあるクラブハウスや近所のパブなどで行うパーティーのようなものだ。そこでは、直前まで本気で殴り合った敵味方が歓談し、ビールを飲みかわし、主将や選手のスピーチや相手へのエールが送られ、次回の対戦を誓い合う。

 この習慣はワールドカップのようなトップクラスの国際試合から、ラグビーが盛んな国・地域の町のクラブチームまでどこでも行われてきた。日本国内ではリーグワンではほぼ実施されていないのは残念だが、大学公式戦などでは簡単な清涼飲料水とスナック程度でも行われている。KCリーグでは、コロナ感染予防の配慮から選手個々が持参した水筒を手に、試合後に簡単にお互いのチーム同士で歓談している。

 このようなファンクションを取り入れたことには、ラグビーがどのような歴史的背景や価値観を持って行われてきたかを高校生年代の選手にも体験させ、継承してほしいというゴロー先生の思いが込められている。

 実際にリーグを立ち上げ、参加チームを募ると、予想以上の反応があった。

「集まるのは早かったですね。昨年で、神奈川県の高校ではノーシード高が33校あったんですけど、呼びかけて2週間くらいで23校が手を挙げてくれた。そもそもターゲットだったノーシード校や合同チームが、かなり入っています」

 コロナの影響もあり、昨夏から秋にかけての第1回リーグは各チームが予定の半数程度の試合を消化するに留まった。年明けの第2回も、1試合を消化できるかできないまま、対外試合ができない状態が続いているが、少ない試合の中で手応えは大きかったという。

「難しい状況の中でも開催して良かったです。私もKCリーグの時は、試合前のウォームアップから選手には何も言いません。『今日は、俺は遠くで見ているただのおっさん。部活に影響するような選手の評価もしないから、試合を楽しんでくれ』と話しています。部活と同じ選手が出ているけれど、雰囲気が全然違う。勝ち負けや、やらないといけないプレーの呪縛から解かれたラグビーって、こんなに溌剌として、爽快感があるんだと実感しました。プレーする選手はすごく楽しそうで、顧問の先生の満足度も高かった。元々うちのチームではやってきたアフターマッチファンクションも、感染対策はありますが、バナナを50本くらい買ってきて、みんなで一緒に食べたりしただけでも、両チームが仲良くなれる。さらに予定していた試合後に、2校ミックスのチームで10分1ラウンドでもやると、またさらに仲間意識が深まる。これは当たりだったと思います」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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