ラグビーW杯で日本と同組 大野均が見た難敵イングランド、“エディー流”の共通点とは
司令塔のSOに「世界の一線級」が揃う
そのキーマンとして注目したのが、大会中に23歳になったSOマーカス・スミスだ。強く印象に残ったのは、スミスにとって6か国対抗デビューとなったスコットランド戦の後半12分のトライシーン。敵陣22メートルラインでのラインアウトからイングランドがモールを押し込むなかで、スコットランドの反則によるアドバンテージをレフェリーが示した瞬間、スミスが右サイドから一気に左の狭いスペースを突いてそのままインゴールに飛び込んだ。
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「あのサイドチェンジから、あんなスピードで攻め込まれてゴール前で逃げ切るように走られると、FWはもう追いつけない。このシーンは違ったが、代表でもコンビを組む若手のSH(スクラムハーフ)ハリー・ランドールとは子供の頃から一緒にプレーしていたと聞いたが、この2人がこれから脅威になると思う。スピードを武器に、常に“狙っている”という印象です。防御の時に、ああいう相手がいるのは嫌なんです」
フィリピン生まれで同国人の母を持つスミスは、俊敏さとスピードを武器に、10代からその才能が注目されてきた。2015年W杯で日本代表が、南アフリカを撃破した“ブライトンの奇跡”を前に練習を行った伝統校ブライトンカレッジに在学していたため、当時16歳だったスミス少年も、日本代表の練習を見守る学生の中にいたのかもしれない。
イングランドには今大会は欠場したファレル、控え出場が続いたジョージ・フォード、そしてスミスと世界トップクラスのSOを3人擁している。大野氏も「本当に誰が出てきても、世界の一線級の選手。彼らに好き放題やられれば、それこそ後手に回ることになる。スミスはスピードがあるし、実績とフィジカルならファレル。自分のチームだったら、どっちも欲しいSOですよね」と、これからの司令塔争いにも注視している。
対戦相手には常に大型FWが脅威となるイングランドだが、FW出身の大野氏が敢えてBK(バックス)に注視するのは、やはりエディー・ジョーンズという指導者を熟知しているからだ。
「日本代表をコーチしていた時代との共通点がありますね。SOとSHに対しては常にオプションをたくさん用意している。変わってないなという印象を受けました。イングランドの選手が、そこは精度高くやり切っていると思います」
日本代表でもジョーンズHCは、2015年W杯へ向けて常に複数の攻撃オプションを持ちながら攻める戦術を、チームに落とし込んでいたが、大野氏は今のイングランドにも共通したものを感じ取っている。時代も、選手のキャラクターも異なる両チームだが、エディーの落とし込むエッセンスは変わらないのだ。
「そして、FWが前線でしっかりと仕事をしているからこそ、スミスをはじめBKが余裕を持ってプレーできているのかなと思います。FWの強さに、さまざまな局面でパスを使っていくのが、今のイングランドなのかなという印象ですね」