競泳界の名将も「絶対大切」と賛同 日本の女性コーチ育成に「競技横断ネットワークを」
競泳の元五輪代表選手で引退後は国連児童基金(ユニセフ)の職員として長く活動している井本直歩子さんの「THE ANSWER」対談連載。スポーツ界の要人、選手、指導者、専門家らを迎え、「スポーツとジェンダー」をテーマとして、様々な視点で“これまで”と“これから”を語る。第2回のゲストはスポーツ庁委託事業「女性エリートコーチ育成プログラム」を率いる日体大の伊藤雅充教授。
連載第2回「競泳アトランタ五輪代表・井本直歩子×日体大・伊藤雅充教授」後編
競泳の元五輪代表選手で引退後は国連児童基金(ユニセフ)の職員として長く活動している井本直歩子さんの「THE ANSWER」対談連載。スポーツ界の要人、選手、指導者、専門家らを迎え、「スポーツとジェンダー」をテーマとして、様々な視点で“これまで”と“これから”を語る。第2回のゲストはスポーツ庁委託事業「女性エリートコーチ育成プログラム」を率いる日体大の伊藤雅充教授。
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スポーツ界の発展に不可欠なジェンダー平等のための、パズルの大きなピースが女性エリートコーチ育成。昨年の東京五輪で、日本選手団のコーチ全体に占める女性コーチの割合は約20%。状況改善には依然高い壁が立ちはだかる。伊藤雅充教授に、現状の課題と展望について聞いた。全3回の後編は、これからの女性コーチ育成に必要なことについて。(構成=長島 恭子)
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井本「伊藤先生がやられている女性エリートコーチ育成プログラムは、2016年度から数えて、現在で3期目です。リオ五輪後から、東京五輪に向けて女性コーチ(コーチ=監督・コーチなどの指導陣を指す)の育成に力を入れてきたとのことですが、冒頭で言われた通り、まだ数値上では目覚ましい変化は表れていません」
伊藤「女性のコーチとしての能力は、間違いなく上がっていると思います。しかし、数が増えていないというのは、プログラム以外の外部要因が大きいのではないかと考えます」
井本「今まで話してきたジェンダー・バイアスの問題以外に、どんな要因があるでしょうか」
伊藤「育った女性コーチたちを受け入れる土壌がないことも、大きな問題ではないかと考えます。ですから、女性コーチの能力を伸ばすと同時に、彼女たちが活躍をする土壌作りが非常に重要です。
そのためにまず、リーダーシップ・ポジションにいる、男性たちの意識改革が必要です。彼らが女性コーチを増やすことの重要性を理解した上で、無意識で男性を選んでしまっていないかなど、男女分け隔てなく能力のある人を選んでいくマインドを作っていかなくてはいけない。世界的にも、そこ(意思決定層のアンコンシャスバイアス)に対するアプローチが必要だと言われています」
井本「私のこれまでの経験で言うと、ジェンダー問題を議論する際、大抵のトップ層の男性は、否定はしなくとも消極的です。そして女性の方に勢いがありすぎると、相手の男性がどんどん逃げてしまう。トップ層の男性をどう取り込むかに頭を悩まされます」
伊藤「はい。男性の間でよく飛び出すのが、『女性がいると、うるさいんだよね』『話、まとまらないんだよね』という言葉です。まさに、東京五輪前に問題となった、女性蔑視発言そのものです。こういった言葉は、忖度の連続をやるのが男たちの会議だと露呈していると思います。結局はその場で議論しようとせず、リーダーシップを持っている誰か『強い男性』の意見が通ればいいという考え。そしてボスである男性側も、そういう扱いやすい人間を集めたがる、という状況です。
『女性がいると、まとまらない』などと言っている人を見ると、結局は自分の意見を通したい人なんだろうなぁと、僕は思います。いろんな角度から議論して良いものを作ろうとせず、自分たちの意見を通すことが目的なんだな、と。そうやって、有能感を得ている、他の人よりも上の立場に立ちたい、思い通りに動かしたいという人は、結構多いんじゃないかな」
井本「そうですね」
伊藤「例えば会議でも、リーダーが、上がってくる意見をまとめて良くする道を探すのではなく、自分の意見を言い、反対する人がいたら機嫌悪くなったりしてね。このように、リーダーシップを取っている人がプレーヤーになってしまい、みんなの意見を尊重し、成長を支援する立場に立っていない場合は問題です。
そういう意思決定のやり方に慣れてしまっている人が多くいる限り、異なる考えを持った女性を受け入れる流れは、なかなか起こらないかもしれません。『他の人よりも優位な立場に立ちたい』という気持ち、男性優位のマインドセットが、女性を対等な立場と認めることを、邪魔している気がします」