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「月経は来ない方がいい」という風潮 女子選手は“女性”を捨てなければ勝てないのか

女子選手には「月経は来ない方がいい」という風潮も…

――体操選手には初経が20歳を超えることもあり、「月経は来ない方がいい」という風潮もあると言います。そんな現状に対して「トップアスリートでいるためには女性であることを捨てなければいけないのか」という一般読者の声が届いています。

本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】

江夏「まず、“月経がある、ない”と“女性である、女性じゃない”は違う話です。月経は確かに面倒くさいので、来ない方が楽なのはわかりますが、本来、必要なホルモンが足りなくて月経が来ないのは体に悪いこと。でも来たら来たで月経痛とかいろいろ面倒なら出血を起こさないようにする医学的な方法はいくらでもあります。そういう管理のもとで『月経が来ないように調整』をするのは大歓迎です。ただ、『来ない方が楽だから病院にもいかずに放っておきました』というのはダメだと思います。ですが、女性ホルモンが出てないから女性じゃないというのは違う話です」

伊藤「女性アスリートは女であることを捨ててアスリートになっているわけじゃないと思っています。いまどき、綺麗な選手もすごく多いです」

――過酷なトレーニングで追い込みすぎることで、将来、妊娠・出産の可能性がある女性としての体に負担になるのではないか、という見方もあるようです。

江夏「実は運動性無月経の選手が将来、妊娠できないかというと、意外とそうでもないのです。運動性無月経の選手も引退後、体重が回復すれば7割は月経が戻るというデータが出てきています。ただ、引退や妊娠を考える時期が30代後半になるとアスリートでなくても妊娠する力は落ちてくるもの。過度なトレーニングが将来的な健康問題を起こすとすれば、運動に見合った食事量が摂れていないために起こる無月経、それらから引き起こされる骨粗鬆症が最大の問題。その啓発のために今、日本産婦人科学会などが一生懸命に動いています(参考=一般社団法人女性アスリート健康支援委員会(http://f-athletes.jp/)、 若年女性のスポーツ障害に関する研究 (http://femaleathletes.jp/))。『月経がなくて楽』という考え方は、将来的な健康問題が生じることを知らなかったために放っておかれた部分はありますね」

伊藤「私は将来、自分の体がダメになるとは思わなかったです。これを乗り越えないと強くなれないという気持ちでやっていたし、月経が来ないことがなかったので、そういう意味では不安はあまりなくて、逆にイライラすることの方が不安でした。特に、練習に集中できないこと。私は現役時代、アスリートとして生きていこうと決めたのが遅くて、19歳くらいでした。でも、アスリートとして結果を出したいと思った時、不健康になるとは思わなかったです。

 洋服が合わなくなるより、結果を出すことの方が大事だったから。『体ごつくない?』と言われるけど、そんなことは私たちには関係ない。体が大きくなることは女の子のアスリートは悩み所だけど、でも、世の中には痩せている人ばかりじゃない。いろんな体型の人がいるし、いろんな文化、髪の色の人がいる。日本という国だからこその捉え方なのかなと感じます。海外で体型のことを言われたことは一度もないです、『アスリートなんだね』と見られるくらい」

江夏「多様性を認めないお国柄は原因にあるかもしれないですね。女性の幸せは何歳くらいで結婚して、何人くらい子供を産んで……みたいなものができ上がってしまっているから」

伊藤「女性としても自分で決めていくことに責任が持てる世の中になるべきかなと思います」

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伊藤 華英

 日本代表選手として2012年ロンドン五輪まで日本競泳会に貢献。2004年アテネ五輪出場確実と騒がれたが、選考会で実力を発揮できず、出場を逃す。水泳が心底好きという気持ちと、五輪にどうしても行きたいという強い気持ちで、2008年女子100m背泳ぎ日本記録を樹立し、初めて五輪代表選手となる。

 その後、メダル獲得を目標にロンドン五輪を目指すが、怪我により2009年に背泳ぎから自由形に転向。自由形の日本代表選手として、世界選手権・アジア大会での数々のメダル獲得を経て、2012年ロンドン五輪・自由形の代表選手となる。2012年10月の岐阜国体を最後に現役引退。

 引退後、ピラティスの資格取得とともに、水泳とピラティスの素晴らしさを多くの人に伝えたいと活動中。また、スポーツ界の環境保全を啓発・実践する「JOCオリンピック・ムーヴメントアンバサダー」としても活動中。

江夏 亜希子

1970年、宮崎・都城市生まれ。96年に鳥取大学卒業後、鳥取大学産婦人科に入局。鳥取大学医学部附属病院、公立八鹿病院(兵庫県)、国立米子病院(現・米子医療センター)などの勤務を経て、04年に上京。汐留第2セントラルクリニック、イーク丸の内、ウィミンズウェルネス銀座クリニックにて女性外来での診療を経験する傍ら、東京大学大学院身体教育学研究科にてスポーツ医学を学び、10年4月に東京都中央区に四季レディースクリニックを開院。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど。日本エンドメトリオーシス学会、日本性感染症学会、日本臨床スポーツ医学会にも所属する。

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