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「お金、子どもを預ける場所、産休…」 6歳児の母、寺田明日香が語るママアスリートの課題

寺田さんが東京五輪のレース後に果緒ちゃんにかけてほしい言葉とは【写真:本人提供】
寺田さんが東京五輪のレース後に果緒ちゃんにかけてほしい言葉とは【写真:本人提供】

あまり好きではない「ママアスリート」の言葉を自ら使っている理由

 今、寺田さんはあまり好きではないという「ママアスリート」の言葉を自ら使っている。そこに、一つの使命感がある。

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「なんで、私が『ママアスリート』と言われるかというと、それが当たり前じゃないからだと思います。『パパアスリート』と呼ばれる人って、聞かないですよね? 野球選手はママが家で育児して、おいしいごはんを作る。それが『美しい』『家族愛』と褒められることが多いですが、私のように逆になると『旦那さん、家事なんて大変だね』と言われます。

 でも、頑張る奥さんと支える旦那さんで家庭を回していく形があっていいんだと世の中の誰かに思ってもらえたり、後輩から『明日香さんがこう歩んできたから、私もできる』『困ったことがあったら、聞いてみよう』という“お助け窓口”のような存在になれたらうれしい。だから、敢えて『ママアスリート』を出しながら、現在も活動しています」

 何かを得るために、何かを諦める。そんな価値観は珍しくなかった。女性アスリートに当てはめるなら「結婚をするために、五輪を諦める」。しかし、結婚・出産しても現役という選択肢が当たり前になれば、それだけ競技寿命は伸び、日本スポーツ自体も発展する可能性がある。

 それは、一般社会においても同じこと。夫婦別姓の選択、雇用機会の均等など、男女平等が叫ばれる昨今。「会社で働く女性もキャリアを築きたいと考えると、その時の結婚を諦めたり、ライフステージを考え直したりする。『そんなことができるんだ』と思ってもらえるように、アスリートとして結果で見せていきたい」というのが、寺田さんの覚悟だ。

「まだまだ女性アスリートは同じレベルの結果を出しても男性アスリートのように稼げず、収入差はある。女性で億を稼げる選手は日本ではごく僅かです。そこは一般社会も同じで、役員も年配の方が多い。もちろん、産休・育休で1年、2年抜けることもあるけど、最近はテレワークが進み、仕事の仕方も多様になっているので、実力次第で男性も女性も変わらない収入と役職が与えられるようになってほしいです」

 最後に書き添えておきたいのは、母として競技を続けることはアスリートの力をさらに引き出す可能性を秘めているということ。

 寺田さん自身、19歳に出した自己ベストを引退、結婚・出産を経て、19年に10年ぶりに更新し、29歳で日本新記録を樹立した。「大変なことはたくさんあったけど、娘がいなかったら、競技はここまで続けてこられなかったと思う」。夏に迎える東京五輪、4月から果緒ちゃんの小学校入学で当面は弁当作りが日課になるというが、アスリートとしての背中を娘に見せることが母としての教えになると信じている。

 冒頭の「6年間も陸上を離れ、子どもを産んで五輪なんて無理だろう」は、陸上復帰直後に耳にした声。

「そこを覆したいと思っているし、五輪に出るだけじゃなく、陸上の日本女子短距離界では1964年東京大会、女子80メートルハードルの依田郁子さんしか成し遂げていない、決勝に残りたいと思って復帰しました。娘がこれから何を好きになり、どう生きるか分かりませんが、自分が決めた目標に向かって頑張る大切さと、その意義を感じてほしい。何年か先に『ああ。あの時、ママは五輪の決勝に残りたいから、あんなに頑張っていたんだ』と頭の片隅にでも残してくれたら、本望です」

 結果が振るわない時があれば「ママ、遅い!」と叱咤するなど、誰より手厳しい果緒ちゃん。東京五輪のレース後にかけてほしい言葉は――。

「『ママ、まあまあ速くなったじゃん!』だったらうれしいかな。そう褒めてもらえるように、ママは頑張ります」

【「出産」について語った寺田明日香さんが未来に望む「女性アスリートのニューノーマル」】

「これは娘の夢でもあるのですが、19年に日本記録を出した時、私だけ記録が表示されたタイマーとトラック上で撮影していて『ずるい!』と言われました。ラグビーワールドカップ(W杯)で日本代表の皆さんが試合後に子どもをグラウンドに入れている場面を見ても『なんで、私はできないの!』と怒っていて(笑)。陸上では海外のママアスリートが優勝した時に抱っこしてウイニングランをするシーンが増えましたが、日本ではまだ見たことない。私も日本選手権などの大きな大会で実現させたいですし、いつかはそんなシーンが当たり前に見られるようになってくれたらと思います」

■寺田明日香 / Asuka Terada

 1990年1月14日生まれ、北海道出身。小4から競技を始め、恵庭北高(北海道)でインターハイ3連覇。卒業後、08年から日本選手権3連覇など活躍し、13年に現役を一度引退。早大人間科学部に進学した。結婚・出産を経て、16年夏に7人制ラグビーに挑戦し、17年1月から日本代表練習生として活動。18年12月に陸上界復帰を表明。最初のシーズンの19年日本選手権3位、9月に12秒97の日本新記録、10月の世界陸上に出場した。果緒ちゃんが好きな料理は「炊き込みご飯とオムライス」、4月から通う小学校のランドセルの色は「『6年間使える色にしよう』と相談し、キャメルに決まりました」。

<「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント開催> 最終日の14日に女子選手のコンディショニングを考える「女性アスリートのカラダの学校」が開かれる。アスリートの月経問題について発信している元競泳五輪代表・伊藤華英さんがMC、月経周期を考慮したコンディショニングを研究する日体大・須永美歌子教授が講師を担当。第1部にはレスリングのリオデジャネイロ五輪48キロ級金メダリストの登坂絵莉さん、第2部には元フィギュアスケート五輪代表の鈴木明子さんをゲストに迎え、体重管理、月経、摂食障害などについて学ぶ。参加無料。応募はTHE ANSWER公式サイトから。詳細(https://the-ans.jp/event/147825/)。

(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」6日目は「女性アスリートと膝の怪我」、サッカーの永里亜紗乃さんが登場)

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)


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