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実は「野球の国」だった中米ニカラグア WBC初出場、元甲子園球児が見た小国の野球熱

野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕。侍ジャパンに大谷翔平投手(エンゼルス)ら豪華メンバーが集結し、日本は大いに盛り上がっている。一方で、世界の野球に目を向ければ、2024年パリ五輪は競技から除外。予選の出場国は、209か国だったカタール・ワールドカップ(W杯)に対し、WBCは28か国に留まるなど、競技の普及・振興、国際化における課題も少なくない。

U23中南米大会を制したニカラグア代表でブルペンコーチを務めた河合賢人さん(左)【写真:本人提供】
U23中南米大会を制したニカラグア代表でブルペンコーチを務めた河合賢人さん(左)【写真:本人提供】

連載「ベースボールの現在地」#5、ニカラグアの元甲子園球児

 野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕。侍ジャパンに大谷翔平投手(エンゼルス)ら豪華メンバーが集結し、日本は大いに盛り上がっている。一方で、世界の野球に目を向ければ、2024年パリ五輪は競技から除外。予選の出場国は、209か国だったカタール・ワールドカップ(W杯)に対し、WBCは28か国に留まるなど、競技の普及・振興、国際化における課題も少なくない。

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「THE ANSWER」ではWBC開催期間中「ベースボールの現在地」と題し、海外でプレー、普及活動してきた野球人の歩みや想いを連日発信。注目される数年に一度の機会だからこそ、世界の野球の今を知り、ともに未来を考えるきっかけを作る。第5回はニカラグアで野球を教えるJICA海外協力隊の河合賢人(たかひと)さん、31歳。甲子園にも出場した野球人生に基づく指導方針や、実は野球が「国技」と呼ばれているニカラグアの野球熱などを聞いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 子どもたちは憧れの眼差しだった。ニカラグア王者を決める一戦。国内最大規模となる1万5000人収容のスタジアムは人で埋め尽くされる。白球を追う選手たちに観衆はお祭り騒ぎ。テレビは試合開始から終了まで中継される。画面の前でアルコールをぐびっと飲み干すお父さん。野球は娯楽として親しまれている。

 ここは日本でも、米国でもない。ニカラグアの日常だ。

 中央アメリカにあり、面積は北海道と九州を合わせたくらい。人口は662万人(2020年)。日本人からすればコーヒー豆やボクサーの印象が強い国かもしれないが、実は野球こそが「国技」と呼ばれている。

「球場で盛り上がる姿を見ると、野球が国技だと感じますね。(他競技と比べ)人気はダントツだと思います」

 河合さんはJICA海外協力隊として、少年少女からプロを目指す高校生世代を指導。その中でニカラグアの野球熱を肌で感じた。海外で野球を教える原点は中学時代。ペルーで指導経験があった監督から、貧しい現地の子どもたちがどれだけ道具を大切にしているか説かれた。

「僕もいつか外国に行って日本の野球を教えられたらいいな」

 09年、身長165センチながら、埼玉の強豪・聖望学園で正捕手の座をつかみ、夏の甲子園の土を踏んだ。帝京大卒業後は小、中学生を対象にした野球スクールのコーチに就いて生活。「日本で仕事をしていると、なかなか『行こう』とならない」。気づけば20代後半。決心がつかないままでいた時、母・幸子(さちこ)さんが病に倒れ、帰らぬ人となった。

「チャレンジしろ」。最後のひと押しは、母がいつも言っていた強気のエール。野球の魅力を届けるため、履歴書にペンを走らせた。

「母はガッツのある人でした。いつも励ましてもらっていて。母が亡くなった後、すぐに(JICA海外協力隊に)応募しました」

 最初はスリランカを予定していたが、国内の情勢悪化によって派遣中止。協力隊事務局からニカラグアを勧められ、チャレンジを決めた。「行くことが決まるまで何も知りませんでした」。全くイメージすら湧かない国との出会い。スペイン語研修を受けた後、19年12月に野球道具を持って海を渡った。

 そこにあったのが「野球の国」だった。

 4か月後にコロナ禍で帰国したが、昨年3月から再び首都マナグアへ。現在は10代中心の女子を主に受け持ち、小さい子から高校生くらいまでの男子も指導する。

 少年たちは野球を楽しみ、MLBを夢見ている。グラブは安くて50ドル。持っていない子は倉庫でくたびれたものを借りる。1個4ドルの硬式球も簡単に買えない。打撃練習でどこかに飛んでいけば、練習を中断し、見つかるまで探す。時にはチーム全員で30分かかることも。まだ金銭感覚のない幼い子にも、道具がどれだけ大切か、自分が日本で教わった時のように伝えてきた。

 ニカラグア野球連盟幹部の一人が日本に数日間の滞在経験があり、手厚いおもてなしに感激。以来、河合さんにも「是非、子どもたちに教えてくれ」と時間厳守や清掃など、野球指導を通じて日本の良いところを伝えるよう依頼された。グラウンドのゴミ拾いは決して押し付けず、自らさりげなく拾う。

「見ている子は見ているし、一緒に手伝ってくれます。日本だとゴミが落ちていないのが当たり前かもしれないけど、ニカラグアでは当たり前ではありません。その大切さを伝えてほしい、と言われています」

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