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ラグビー日本に吹き始めた4年前の旋風 格上アルゼンチンと天王山、命運握る「FW第3列」の奮闘

日本戦を見据えてメンバーを大きく変えたアルゼンチン

 サモア戦では、早いテンポの攻撃を意識するあまり、無理のあるライン攻撃から精度の悪いパスミスを犯すなど粗さもあった。だが、日本に輪をかけて粗いサモアのハンドリングと、日本の秩序あるプレーに“理解”があるヤコ・ペイパー・レフェリーのジャッジのおかげで、笛の追い風も吹いた。

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 興味深い数値もある。どちらのチームが試合で優位に立っていたかの判断基準になるデータでは、いずれもサモアに若干上回られているのだ。

 テリトリー(地域支配率)は48%対52%、ポゼッション(ボール保持率)も43%対57%と日本が下回った。手元で数えた敵陣22メートル内への侵入回数も、前半は日本の3回に対してサモアは5回と下回りながら、スコアは17-8のリードで折り返している。この数字から読み取れるのは、日本が少ないアタックチャンスを有効に生かしているという事実だ。ミスもあったと書いたが、サモアに比べるとチャンスにしっかりと相手のデンジャラスゾーンに攻め込み、スコアに繋げる実行力(execution)で明暗を分けた試合でもあった。

 見方を変えると、サモアのミス、プレー精度の低さに助けられた試合とも言える。ミスが顕著に見られたのはオフロードパスだ。相手のタックルを受けながらボールを浮かせて繋ぐ技術だが、このゲームでは日本の4回に対してサモアは17回のオフロードを行っている。日本の低いタックルの対策としては効果的に防御を崩すシーンもあった一方で、ハンドリングミスを多発させたことが日本の追い風にもなった。

 次戦へ向けて課題となったのは、執拗にラックサイドを崩してきたサモアの局地戦だろう。アルゼンチンには、サモアのように徹底して密集周辺を攻めてくるイメージはないが、フィジカルゲームには自信を持つだけに修正は必要だろう。

 日本がサモアを倒した2日後には、アルゼンチンがチリとの南米決戦に59-5と圧勝。勝ち点で日本と並んだが、得失点差で抜いて2位に浮上した。プールDはイングランドの1位での決勝トーナメント進出とチリの敗退が決まり、日本とアルゼンチンの直接対決の勝者が生き残る展開だ。

 日本はアルゼンチンに過去1勝5敗と大きく負け越している。勝てたのは、アルゼンチンが日本同様にW杯でプール戦を突破できない中堅チームという時代だった1998年のことだ。10月2日時点の世界ランキングも、日本の12位に対してアルゼンチンは9位。直近の対戦は2016年11月まで遡り、日本が20-54と完敗している。

 9月30日のチリ戦では、世界ランキングトップ10内が常連という実力を、しっかりと見せつけた。同22位のチリに対して、後半75分のモールでのトライを奪われるまでスコアを許さない堅い防御を披露。攻めては前半3、後半5トライを畳みかけてゲームを支配した。アルゼンチン人記者からは、ゲーム内容に満足しない声も聞いたが、その勝ちっぷり以上に印象深かったのはメンバー構成だった。22日(日本時間23日)のサモア戦からは先発11人を入れ替え、アルゼンチンが必勝を期した9日(同10日)のイングランド戦の先発からも12人が異なる布陣だった。

 前回大会ではオーストラリア代表を率いたマイケル・チェイカHCは、元主将のHOアグスティン・クリーヴィー、この試合が100キャップ目となったアルゼンチンの英雄、SOニコラ・サンチェスと長らくチームを牽引してきた重鎮を先発起用したが、現実を考えると中7日で迎える日本戦へ主力選手を温存するための万難を排した判断だろう。日本との決戦に、フルメンバーで臨もうという指揮官の強い思いが推測できる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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