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陸上の伊藤友広さんが宮古市で「東北『夢』応援プログラム」に登場

元陸上の日本代表でアテネ五輪にも出場した伊藤友広さんが19日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」のオンラインイベントに登場した。各競技のトップランナーが遠隔指導ツール「スマートコーチ」を駆使し、動画を通じて被災地の子供たちを指導するこのプログラム。今回は2021年3月までの3か月間、岩手県宮古市の子供たちを対象に行われ、指導始めとなるこの日は「夢宣言イベント」が開催された。

「東北『夢』応援プログラム」のオンラインイベントに伊藤友広さんが登場【写真:編集部】
「東北『夢』応援プログラム」のオンラインイベントに伊藤友広さんが登場【写真:編集部】

「大事なのは日々の積み重ね」 元五輪選手が“走り”を通じ、宮古の子供達へ伝えたい事

 元陸上の日本代表でアテネ五輪にも出場した伊藤友広さんが19日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」のオンラインイベントに登場した。各競技のトップランナーが遠隔指導ツール「スマートコーチ」を駆使し、動画を通じて被災地の子供たちを指導するこのプログラム。今回は2021年3月までの3か月間、岩手県宮古市の子供たちを対象に行われ、指導始めとなるこの日は「夢宣言イベント」が開催された。

 本来は実際に宮古市を訪問する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大により、この日のイベントはオンライン方式に変更。さらに直前に東北地方を襲った寒波による雪の影響もあり、トラックのコンディションは決していい状態ではなかった。それでも伊藤さんは「外は寒くて雪の影響もあるかもしれませんが、頑張って取り組んでください」と挨拶した。

「何年もやらせていただいていて、僕のことを知っている人もいるかもしれませんし、初めての人もいるかもしれません。今回はいつもより期間が短くなってしまいますが、走りが良くなるようなメニューをギュッと詰め込んで皆さんのサポートができたらと思っています。画面を通して、僕のほうでポイントはしっかりと伝えていきますので、しっかりと聞きながら、考えて、体を動かしていってください」

 続いて伊藤さんを紹介する写真が3枚公開された。1枚目が伊藤さんの現役時代でオリンピックに出場した時の写真で「五輪の本番では第3走者だったのですが、五輪出場が決まったのが予選の4日前でした。当時は補欠として現地に入ったのですが、4日前に行ったタイムトライアルで1位になり急遽メンバー入りするという、チャンスを勝ち取って五輪を走った時の写真です。だから『やったー!』『出られる!』といううれしい気持ちで走りましたね」と伊藤さん。どんなに状況が良くないときでもあきらめずにチャンレジすることの大切さを伝えた。

 2枚目は実際に伊藤さんが小学生に走り方を指導している時の写真。伊藤さんは小学生より下の年代から高校生、大学生、そして陸上以外のプロアスリートまで幅広く指導しているが、「教えているメニューはほとんど同じです」と語る。「小学生はどうしても成長スピードのバラつきがあるため、体の大きい人のほうが速い場合が多いです。ですから、まずは走り方を整えていくことが大事。まずはいい走り方を目指すことを頑張ってもらいたい」と子供たちに期待を寄せた。

 最後は、一緒に0.01スプリントプロジェクトを運営している秋本真吾さんとプロサッカー選手の宇賀神友弥選手、プロ野球選手の内川聖一選手との写真。なぜ陸上競技以外のアスリートが走り方のトレーニングを行うのか。伊藤さんは走り方を変えることで起こる変化について「ケガが減る」ことを挙げた。「走り方が良くないといろんな筋肉に余計な負荷が掛かりケガが増えてしまうのですが、プロアスリートはケガが減ることによって通年で活躍できるメリットがあるので、走り方の改善に取り組んでいるのです」。

 画面越しに映された写真と、伊藤さんの説明にしっかりと耳を傾ける子供たち。その表情は真剣そのもの。自己紹介コーナーでは、子供たち一人ひとりがカメラの前に出てきて「プログラムへの意気込み」を発表すると、伊藤さんは「短距離を速くしたい人、長距離を速くしたい人、ハードルや幅跳びに活かしたいなどいろいろありました。これらすべて走り方を良くするとほとんどがレベルアップします。走り幅跳びもスピードがあったほうがより遠くへ飛べます。長距離も走りが整っていたほうが、エネルギーが漏れなくて疲れにくくなります。目的や目標はそれぞれ違うところにあるかもしれませんが、今日は走りを良くするということで、皆さんが良くなるきっかけになると思いますので、それぞれ考えながら頑張ってみてください」とエールを送った。

秋田県出身の伊藤さんは体を冷やさないことの重要性を伝えた【写真:編集部】
秋田県出身の伊藤さんは体を冷やさないことの重要性を伝えた【写真:編集部】

前足が大事とスタート時の構えを伝授 後ろ足は浮かせる!?

 さっそく伊藤さんによるクリニックがスタート。トラックのコンディションと寒さを考慮して室内でのトレーニングに変更になったが、まずはウォーミングアップで体を温めた。伊藤さんが準備した少し早いリズム音に合わせて腕や足を動かしていくトレーニングだが、「腕を振るときに体から離れると力が入らないので、腕を曲げて体の近くで腕を振ってください」とポイントを説明。リズムに合わせて10秒間の腕振りを行うと、次は腿上げ。同様に10秒間、リズムに合わせて腰の高さまで足を上げる腿上げを行った。「3、2、1、終了! どうですか? 今、寒い人~? 暖まってきた?」と声を掛けると、子供たちのマスクからは白い湯気が立っているのが画面越しに窺えた。

 伊藤さんは子供たちと同じ東北の秋田県出身。「寒い地域に住んでいるので、体が冷えないようにしてください。通常の筋肉は36度ぐらいなのですが、これが39度ぐらいになると、測定記録が16%良くなるというデータがあります。反対に低く(寒く)なると遅くなります。このあと50メートル走を測定しますが、できるだけ体は温めたままの状態で測定に臨んでください。これは試合の時も同じです」と体を冷やさないことの重要性を伝えた。

 ウォーミングアップを終えたところで、走りのトレーニング。片足で5歩けんけんを行ってからのダッシュと、5メートルスキップしてからのダッシュを行った。「自分の足で遠くに行こうとしなくていいです。体の真下に足を置いて、真っすぐな姿勢を前に移動させてあげる意識でけんけんしてみてください」「スキップも体重を前にかけて、勝手に前に進んでいくイメージで」と伝えると、子供たちはすぐに対応した。

 次にチェックしたのが、スタートダッシュの構え。「ヨーイ、ドン!って言われて、出る直前の構えをしてみてください」と伊藤さん。おのおのが構えを行い、それを見た伊藤さんが「構えは前足が大事です。後ろ足を浮かせても、前足だけで体重を支えられる構えをしてください」と伝えると、子供たちは少し驚いたような表情を浮かべていたが、その後、外で行った50メートルのタイム計測では全員が伊藤さんの教えを取り入れた構えからきれいなダッシュを見せていた。

 室内に移動して行われたのが、この日のメインとなる「夢宣言」だ。それぞれに渡された「夢達成ノート」に、子供たちは「私の将来の夢」「未来の私たちの街をどうしたいのか」「3か月後の約束」を記した。「3か月後の約束」では、「長距離のタイムを縮めたい」「50メートル走のタイムを0.1秒縮めたい」「0.5秒縮めたい」といった目標を宣言。今回は3か月と短い期間だが、伊藤さんは「昨年に続いて参加してくれたありがとう。昨年より走りが良くなっている感じがしました」「走りを良くしていくと長距離のタイムも良くなっていくことがあるので、まずは走りを良くしていこう」「一緒に頑張っていきましょう!」と一人ひとりに声を掛け、子供たちの目標に寄り添った。その後、オンライン上で2ショット写真も撮影。初めはぎこちなかった子供たちに笑顔が溢れた。

 質問コーナーでは、「選手になって良かったこと、つらかったことは?」という、伊藤さんをして「これを話したら時間が足りない(笑)」と言わしめた質問が飛んだ。良かったことに「五輪に限らず、競技力が上がるにつれて、日本全国や海外といろいろな場所に行けたこと、そして世界がどんどん広がって友達がたくさん増えたこと」を挙げ、つらかったことに「五輪後にケガの影響で足が遅くなってしまった。陸上選手として会社からお金をもらっていたので、結果を残さないといけないのに残せなかったこと」を挙げたが、続けてこんな想いを子供たちに伝えた。

「そのつらい体験のときも、次の成功につながるようなヒントや勉強すべきことがあって。そのつらかった時期に学んだことが、大人になった今に活きていて、良い経験をしたなと思えているんです。ですから、皆さんもつらい経験をしたときに『これは自分が成長できるチャンスだ!』と思ってひと踏ん張りしてほしいです」

参加した子供たちは、モニターに映る伊藤さんと一緒に“集合写真”【写真:東日本大震災復興支援財団提供】
参加した子供たちは、モニターに映る伊藤さんと一緒に“集合写真”【写真:東日本大震災復興支援財団提供】

より足が速くなるコツは…他の人にも教えること

 30分の走りのトレーニングを含んだオンラインイベントは約2時間に及んだ。画面越しでのやり取りになったものの、昨年からプログラムに参加する関口健太さん(小6)は「リモートだったけど、走り方とか前よりできたと思うので良かった」と手応えを口にすると、初めて参加した佐々木海知さん(小6)も「なかなかない機会で教えてもらえたことを活かして、50メートル走でタイムを縮めることができた」と喜んだ。

 今後は参加した子供たちから練習した動画が送られ、それに対し、「夢応援マイスター」の伊藤さんがアドバイスを添えて返信する。月1回のやりとりを繰り返しながら、約3か月間で走りの技術向上を目指していく。

 閉会式。これから一緒にトレーニングを行う子供たちに、伊藤さんはこんなメッセージを送った。

「オンラインという少しやりづらい形にはなってしまったけど、このプログラムの大半は動画のやり取りで、オンラインで行われていきます。このやり方に慣れていくことがこれからの社会を生きていく皆さんの力になると思います。

 今日も走りのポイントを伝えましたが、大事なのは、ちょっとずつ日々の積み重ねによって変わってくることが大きい。皆さんが持っている夢達成ノートを毎日活用しながら、仮にもし途中で中断しちゃったとしても、ちゃんとできるようになったかなとコツコツやってみてください。

 それともう一つ。これをやって良かったなとか、これで変わったなということを、今いるメンバーや、みんなが所属する陸上クラブのメンバーに教えてあげてほしいです。みんなの走りを良くしてあげることで、走りに対する理解がより深まっていくと思うので、他の人に教えることもいいと思います。それにみんなと一緒に学んでいけたら、自分の足もより速くなると思います」

 寒さを吹き飛ばす熱のこもったメッセージ。自分の成長をより高めるためにも、人に教えることを求めた伊藤さん。「3か月と短い期間ですが、皆さんと一緒に勉強していきたいと思います。これからもよろしくお願いします!」と、最後はモニターに映る伊藤さんと一緒に1枚の写真に収まった。

 これからの3か月。東北は寒さと雪で決してベストなトレーニング環境ではないのかもしれない。それでも、今できることは確実にあるはずだ。それをコーチ役の伊藤さんと一緒に行うことで、春が訪れる頃にはしっかりとした成長を感じることができるはずだ。

(THE ANSWER編集部)

伊藤 友広

元陸上五輪代表

国際陸上競技連盟公認指導者資格(キッズ・ユース対象)。

1982年8月16日生まれ。秋田県出身。国際陸上競技連盟公認指導者(キッズ・ユース対象)。大曲高(秋田)で国体少年男子A400メートル優勝。アジアジュニア選手権400メートル5位、同1600メートルリレーはアンカーで優勝。国体成年男子400メートル優勝。卒業後は法大に進学。04年アテネ五輪男子1600メートルリレーの第3走者として日本歴代最高の4位入賞に貢献。現在は秋本真吾氏らとスプリント指導のプロ組織「0.01 SPRINT PROJECT」を立ち上げ、ジュニア世代からトップアスリートまで指導を行っている。
http://001sprint.com/

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