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強豪校へ進学すれば幸せ? 堀越高サッカー部監督の疑問、選手主体で活動する部活の意義

昨年度で記念すべき100回大会を迎えた全国高校サッカー選手権は、多くの名将やスター選手を生み出してきた。だが選手権に勝ち優れた選手を輩出し続けた名将は、3桁を超えるすべての選手に真摯に向き合い、成長を促してきたのだろうか。大所帯の選手たちに過酷な試練を一律に課し、生き残ってきた選手たちだけが脚光を浴びる。そんな部活の運営者を、本当に名将と呼べるのだろうか。

選手1人ひとりが主体的に考えて部活に取り組む堀越高校サッカー部【写真:堀越高校提供】
選手1人ひとりが主体的に考えて部活に取り組む堀越高校サッカー部【写真:堀越高校提供】

ボトムアップ方式で変革、堀越高校サッカー部・佐藤実監督の英断

 昨年度で記念すべき100回大会を迎えた全国高校サッカー選手権は、多くの名将やスター選手を生み出してきた。だが選手権に勝ち優れた選手を輩出し続けた名将は、3桁を超えるすべての選手に真摯に向き合い、成長を促してきたのだろうか。大所帯の選手たちに過酷な試練を一律に課し、生き残ってきた選手たちだけが脚光を浴びる。そんな部活の運営者を、本当に名将と呼べるのだろうか。

 かつて上梓した『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』では、敢えて強豪校で不遇をかこった選手たちの声を拾った。入学早々に酷い故障に見舞われ今でも後遺症に苦しむ例もあれば、まともな活動に入る前にしごきと苛めで弾き出された選手もいたし、3年間全うしたのに卒業式で名将から「おまえ、誰だっけ?」と尋ねられた生徒もいた。

 広島観音高校で2006年に全国高校総体(インターハイ)を制した畑喜美夫監督(当時)の試みは、長時間に渡る過酷さを競い合う強豪校の悪しき伝統へのアンチテーゼだった。ここでは選手たちが目標を定め、練習メニューを考え、メンバー選考や采配も行った。全体練習は週に2度だけで、残りの日々をどう使うかは選手個々の判断に委ねた。その結果、選手たちは急速な成長を遂げ、インターハイ優勝の栄冠に輝いた。

 堀越高校の佐藤実監督も、部活の理想形を追い求めて畑氏の下で学び、同じようにボトムアップ方式にシフトした。それは上意下達で固まっていた堀越の伝統を覆し、部活の主人公を生徒たちに戻す英断だった。

 実は個人的に堀越高校で凄惨な苛めにあい、退学してスペインへ渡った選手を知っている。佐藤監督が着任する少し前の話だが、かつての堀越高校サッカー部の印象は最悪だった。しかし今回、上梓した書籍『毎日の部活が高校生活一番の宝物』のためにインタビューをした堀越の在校生や卒業生たちからは、好印象しか残らなかった。誰もがチームや自分の長所短所に真摯に向き合い、主体的に深く考えてきた足跡を的確な言葉で紡いでくれた。そして結局、佐藤監督の変革による成果は、ここに集約されているのではないかと思う。

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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