日本ラグビーが世界に及ぼした甚大な衝撃 12年前と境遇が酷似、夏のV字回復&赤竜狩りへ「奇襲攻撃をかける」――エディーHC単独インタビュー

若いメンバーに接点の攻防で必要なスキルを落とし込んでいるエディーHC
「今のウェールズには(トニー)レフェル(FL)という優れた7番がいる。彼はプレーしている(イングランドの最強リーグ)プレミアシップの中でもかなり力のある選手です。BKにも1人2人、いいジャッカルをする選手がいます。なので、ジャパンはスペースを素早く閉じること、つまりボールキャリアーに次いでブレークダウンのボールに素早く絡むことが大事になります。宮崎合宿スタートからの5日間では、かなりそこに着手しています。我々は世界一のブレークダウンチームを目指しています。それが実現出来ないという理由はないのです」
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世界一を目指すと豪語したエディーだが、威勢のいい言葉だけを掲げているのではない。若いメンバーに接点の攻防で必要なスキルを落とし込んでいる最中だ。
「2015年も19年もそうでしたが、ブレークダウンに高低差をつけることにもう一回取り組んでいます。今はまだ2年目なので、もう少しそこを強化していきたいし、オフフィールドでもそこはかなり取り組めています」
エディーの指摘する高低差とは、ボールを持った選手、相手にタックルに入る選手が“ダウンスピード”という、立っている態勢からいかに素早く相手よりも低い姿勢に転じてコンタクトできるかというスキルだ。低い姿勢になるスピードが早ければ、相手がそれに対応できず、接点のコンテストでも優位性を持てるのだ。2015年W杯へ向けた第1期エディージャパンでも、グラウンド練習、フィジカルトレーニング中に、指揮官、選手が何度も「ダウンスピード!」と声を掛け合っていたのが思い出されるが、そのダウンスピードの意識が2019年以降の日本代表、そして国内ラグビーでもどこまで重視されてきたかを考えると、疑問を感じざるを得ない状況が続いてきた。
「そうですね。理由としては、リーグワンではブレークダウンのコンテストが少ないのです。その悪い習慣が選手についてしまっていると思っています。そこまで突き詰めなくても、なんとかしのげてしまう状況だったのです」
北半球のフランスTOP14、イングランド・プレミアップなど世界トップクラスのリーグでは、フィジカルの強さも駆使した激しいブレークダウンの攻防が展開されているが、スピード、ボールの展開に重きを置く日本のラグビーでは、海外ほどの接点での厳しいバトルがないというのが指揮官の見解だ。実際、海外リーグのゲームを観れば的を射た指摘だと考えていいだろう。日本のリーグワンでも、日本選手にはないサイズやパワーを持つ海外トップ選手が加わることでレベルは上がっているが、リーグが従来以上に代表強化に寄与するためには、このエリアの厳しいボール争奪もワンステージ上のフィジカリティーが求められる。
ブレークダウン、スクラム、そしてディフェンスと、エディーにウェールズの特徴と、日本代表がいかに戦い、再び金星を挙げることが出来るかを聞いてきたが、最後に、ゲーム自体がどのような展開になると考えているかも聞いた。
「伝統的なウェールズのラグビーは、パワーが強みのイングランドと比べてスキルがあってボールを素早く動かすスタイルです。でも、寂しいことに、伝統的なウェリッシュラグビーはかなり失われています。だから、ここまで落ちてきているのです。でも、我々はジャパニーズラグビーをしっかりとやり抜くことにこだわらなければいけないと考えています。実際、ゲームでウェールズは、日本に対してかなり蹴って来るだろうと思います。暑さと湿度の高い中での試合なので、ボールがスリッピーになるのは間違いないですからね。そしてラック周辺でスペースがあれば一気に仕掛けてくる。もし密集からいいボールが出れば、そこから動かしていく。我々としては、時間とスペースを奪う事が必要になる」
第1戦が行われる福岡・北九州市は2019年W杯でウェールズがキャンプ地として滞在した町で、当時からチームと市民の交流が行われてきた。今回のウェールズ戦開催も、このような背景を踏まえて日本ラグビー協会が会場に指定した。すでに、地元では市民によるウェールズ国歌「ランド・オブ・マイ・ファーザーズ」斉唱の練習が行われ、小倉駅に掲げられた巨大な垂れ幕は、日本代表ではなくウェールズ代表を主語にデザインされている。ホームゲームながらアウェーの様相もありそうなオープニングマッチに、エディーは苦笑しながらこう話した。
「クレイジーだね。でも、そこが日本だけのユニークさでもある」
そんなウェールズ歓迎ムードの北九州で、果たして桜のジャージーが満席の予想される観客を惹き付け、熱狂させることが出来るのか。2027年へ向けた強化の行方を占うテストの時が近づいている。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
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