秩父宮ラグビー場の客席に“異変” あるリーグワンチームの試み、「南スタンド最前列を…」迎える特別な「3.30」

青山高校、日本青年館、外苑前駅など周辺施設も理解・支援
栗原ら様々な選手たちの施設訪問に始まり、リコーが聴覚障害者向けに開発したPekoeなどの取り組みを展開してきたBR東京だが、敢えてユニバーサルデーという特別な1日を開催したのには理由がある。
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「これまで数年で健常者ではない方と接点を持てています。そこで感じたのは、スポーツの力は、弱い立場の人たちに対してこそ影響を及ぼせるのではないかということです。だったら1個に集約してやってみたら、他のチームにも何か影響を及ぼせるかなというのがきっかけです。BR東京の取り組みも、それぞれバラバラだったんです。聴覚障害者向けだったり、介護が必要な方みたいな。難しさもあるが、それらを集約することの大事さというか、実際に自分たち自身でやる中で、様々な事に気付かせてもらうという狙いもありました」(白崎CVO)
多くのリーグワンチームが、ハンデを持つ人たちと様々な交流、支援を続けてきた。前身のトップリーグ時代からチーム運営は事業化へと舵を切り、チームが拠点を置く地域やコミュニティーと従来以上に積極的に接点を模索する中で、スポーツ、そしてラグビーが持つ新たな可能性を見出し、プレーする以外の価値を創り出そうとしている。白崎CVOは、ユニバーサルデーを開催する思いや、その価値をこう語っている。
「これまでもいろいろな人たちとの接点があるから、こういう人たちが協力してくれるだろうなというのは僕らの頭の中に大抵はある。じゃあそれを1つにまとめて、年に1回の発表会じゃないけれど、スポーツの力で皆さんと一緒にこんな問題解決をしていきましょうというのが今回の趣旨なんです。これを、年を追う毎にどんどん展開して、それを通してスポーツで何かをやりたい人たちが外部から入ってきて、さらにテクノロジーなのか、マンパワーかも知れないですし、お金なのかも知れない、そういうものが流動化することによって、世田谷にはやはりブラックラムズがあってよかったなと思ってもらえるんじゃないかと考えています。この3月30日単体の話じゃなくて、前後にかなり長いストーリー性を持って僕らが関わらせてもらっていると感じています」
当日の取り組みに戻るが、チームスタッフは秩父宮ラグビー場を取り囲む神宮外苑界隈にも協力を求めてきた。野田朝子チーム広報は「(障害者用の)スタジアム内のトイレや駐車場を考えると、秩父宮だけでは限界があるので、真向かいにある青山高校にもご協力をいただいています。他にも周辺施設で『誰でもトイレ』のあるところに声をかけています。自分たちだけ、秩父宮だけでは出来ないことが沢山あるんですけど、周りの方々にもサポートしてもらおうというところですね」と会場周辺も巻き込んだ受け入れ態勢を説明する。日本青年館や東京メトロの外苑前駅などにも相談すると「どこもウェルカムで、逆にアドバイスをいただくくらいでした」と周辺施設の理解、応援も受けながら、当日への準備を進めている。
そしてチームの思いは、試合会場での観戦が難しい人たちにも向けられている。BR東京の練習グラウンド近くで交流を深めてきたグループホームではパブリックビューイングを開催。白崎CVOによると、昨年から選手らが訪問して続けてきた健康講座で触れあった高齢者には生中継でユニバーサルデーを楽しんでもらうという。
「今回はグループホーム1箇所ですが、170人くらい入居されている規模なんです。試合を中継するJ SPORTSさんなどの企業に協力していただいて、ホームで観戦出来るようになりました。有料放送を展開するJ SPORTSさんですが、相談すると、こういう使い方もしてほしいと言っていただきました。他の企業も社会活動、貢献活動にも前向きで、うちの活動に二つ返事でサポートしていただけそうです。今後はさらに多くの施設でパブリックビューイングを考えているので、モニターの貸し出しや設置、中継受信設備の取り付けやメンテナンスなども前向きに考えていただいています」
このパブリックビューイングだけではなく、先にも紹介した場内イベントや神宮外苑界隈の施設への協力要請など、BR東京が様々な関係性を創り出し、互いに連携して、新たな事業、取り組みを拡散していくのが、ただ1日限りのイベントではないこの先への可能性を感じさせる。白崎CVOは「いろいろなステークホルダーを、やはりBe a Movementというビジョンで巻き込みたいという思いがある。それが、より多くの人たちの問題解決に繋げられるんじゃないかというのが僕らの考えていることなんです」と“3.30”がチームや関係者にもたらすものに期待を膨らませる。