井上尚弥と戦うネリに告ぐ 日本人は絶対に忘れない、「どす黒い憎悪」が渦巻いた山中戦の国技館
試合後に狂喜乱舞するネリと陣営、なぜ……
真っ黒な両国国技館の天井。目に見えないはずの憎悪が、リングの上に重く、どす黒く渦巻いていた。セミファイナルで勝利した岩佐亮佑も物々しい空気を感じていた。
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「国民が『あいつを絶対に倒せ』という雰囲気。山中さんのために応援団がヒリヒリしていた」
メインイベントは入場からネリへの罵声が殺到。「偽物王者!」。8500人の四面楚歌。殺意に似た怒りがぶつけられた。
山中さんが無念を晴らし、王座に返り咲いてほしい。その思いで見守ったが、4度のダウンを奪われる2回1分3秒のKO負け。沈黙した会場にネリ陣営の奇声だけが響く。リングでメキシコ国旗が揺れた。肩車され、狂喜乱舞するネリが理解できなかった。
なぜ、喜べるのか。
「俺は無敗を守った。ヤマナカから恐怖が見て取れた。だから、容赦なくパンチを打ち続けた」
静まり返った国技館の地下通路は、非常口を示す緑の光しかない。闇の中からむせび泣く後援会の女性の声が響いていた。長年、山中さんを取材してきたベテラン記者も涙を拭っていた。「こんなの、あんまりだよ……」
控室で行われた会見。日本の名王者はグラブを吊るした。「これがもう、最後ですよ。これで終わりです」。目を腫らした神の左。穏やかな口調とは対照的に、帝拳陣営も、報道陣もやるせなさに満ちていた。
控室の前にいた村田諒太は怒っていた。山中さんとは南京都高(現・京都廣学館高)と帝拳ジムで後輩。「体重が重い相手と試合をするのは僕だって怖い。でも、逃げるわけにはいかない中で戦った山中先輩はカッコ良かった」。感情的になり、記者たちに向かって喧嘩越しのようにまくし立てた。
「確かに山中先輩は減量がきつかったし、耐久力は落ちていた。でも、相手は1階級上の選手ですよ。ドーピングもそうだけど、ルールを厳正化しないとダメ。二度と(試合を)できないとか。そうしないと、どうやったってしこりが残る。民事訴訟を起こせるくらいにしないと。賠償責任を負わせるとかね。そこまでやらないと変な流れになる」
山中さんが目に入った途端、涙を堪えながら挨拶していた。
ネリがベルトの代わりにファイトマネーを持ち帰って6年。一度受けた処分が解除され、再び日本に戻ってきた。2024年5月6日、舞台は東京ドーム。迎え撃つのは世界のボクシング史に名を残す、日本の国民的ヒーローだ。