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井上尚弥と戦うネリに告ぐ 日本人は絶対に忘れない、「どす黒い憎悪」が渦巻いた山中戦の国技館

ボクシングの世界スーパーバンタム級(55.3キロ以下)4団体タイトルマッチ12回戦が6日、東京ドームで行われる。5日は都内で前日計量が行われ、4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が55.2キロ、元世界2階級制覇王者の挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)が54.8キロで一発クリア。ネリは懸念された計量を突破し、山中慎介戦で大幅な体重超過を犯して以来となる日本での試合を迎える。

2018年3月1日の山中慎介戦に勝利し、陣営に肩車されて喜ぶルイス・ネリ【写真:Getty Images】
2018年3月1日の山中慎介戦に勝利し、陣営に肩車されて喜ぶルイス・ネリ【写真:Getty Images】

6年前のネリ体重超過で抱えた負の感情

 ボクシングの世界スーパーバンタム級(55.3キロ以下)4団体タイトルマッチ12回戦が6日、東京ドームで行われる。5日は都内で前日計量が行われ、4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が55.2キロ、元世界2階級制覇王者の挑戦者ルイス・ネリ(メキシコ)が54.8キロで一発クリア。ネリは懸念された計量を突破し、山中慎介戦で大幅な体重超過を犯して以来となる日本での試合を迎える。

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 2018年2月28日に起きた、意図的とも捉えられかねない前代未聞の計量失敗。偉大な日本人王者はキャリアの最後を傷つけられ、引退した。ファンや関係者に広がった負の感情は忘れられない。あの場にいた記者が当時を克明に振り返り、井上戦への想いをつづる。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 あの怒声は、6年経った今も耳に残る。

「ふざけんな、お前!」

 頬のこけた山中さんが叫んだ。怒りに満ちた目がネリに鋭く突き刺さった。

 午後1時、体重が読み上げられるまで30秒以上かかったネリの計量。学校の教室より少し広い会場は、100人近い関係者でごった返した。「2.3キロオーバー!?」。ざわつきをかき消したのは、事実を知った帝拳ジム・本田明彦会長の声。ただごとではない。山中さんは直後に一発パス。でも、試合は成立しない。カメラに向けて力こぶをつくったが、すぐに表情は崩れていった。

 山中さんは控室へ引き揚げる際、私の真横を通った。片手で顔を覆っていた。涙は隠し切れる量ではなかった。

 この7か月前の2017年8月、12度守ったベルトを奪われた。具志堅用高に並ぶ日本歴代最多の13戦連続防衛を懸けた試合で。しかも、試合後にネリのドーピング違反が発覚。「あれで終わりたくない。ネリを倒す。それしかない」。街を歩いていても、ふと蘇った、あの髭面。再起に人生を懸けた偉大なボクサーの想いが、未曽有のルール違反によってまたも踏みにじられた。

 ネリは2時間後の再計量も1.3キロオーバーで王座剥奪。30分後、山中さんは電話によるメディアの代表取材に応じた。

「本当に悔しかった。両者万全でやりたかった」

 受話器から聞こえる声はもう、いつもの穏やかなものだった。報道陣が昼食を取った計量会場のホテル。ちょうど山中さんも陣営と席を立つところだった。「じゃあ、明日」と柔らかくこちらに挨拶をしてくれたが、その背中はどこか力なく感じた。

 2.3キロ。数十グラム単位で体重を管理するボクサーにとって、ありえない数字だった。ネリ陣営は減量終盤に体内の水分を一気に出す「水抜き」に失敗したと主張。しかし、試合までの練習を見ていた日本の関係者によると、サウナスーツなどを着ることもなく、汗をかく姿勢を感じられなかったという。意図的な超過を疑われても仕方ない。

 計量失敗後、机に突っ伏してうなだれるネリの姿はしらじらしかった。

 急きょ、ネリにだけ義務付けられた試合当日の計量。規定をクリアした後、チーズケーキ片手に「俺は体をつくった」と言い放ったことに愕然とした。決行された試合。リングに広がったのは、もっと信じがたい光景だった。

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