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中3平均身長166cmで世界に突進した田中史朗 武器はタックル、W杯で奇跡呼んだ恐怖を超越した勇気

会見後にサプライズゲストに登場した松島幸太朗(東京SG=左から1人目)、松田力也(埼玉WK=同3人目)に挟まれ、泣き笑いの表情を浮かべた田中【写真:吉田宏】
会見後にサプライズゲストに登場した松島幸太朗(東京SG=左から1人目)、松田力也(埼玉WK=同3人目)に挟まれ、泣き笑いの表情を浮かべた田中【写真:吉田宏】

15年W杯南ア戦、苦境で見せた恐怖を超越した勇気と勝利への飽くなき情熱

 引退の理由は明白だった。

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「本当に体がキツイというのがまず1つ。そして下(若手)からも、すごくいいプレーヤーが出てきているというのも、悲しくもあり嬉しくもあった現状で、本当に日本ラグビーがすごくレベルアップしていて、僕の今のパフォーマンスで現役を続けているのが、正直やっていていいのかなという部分もあった。今シーズンも試合には出られていましたが、そんなにいいパフォーマンスが出来ているわけじゃなかったので、シーズンの半ばで決断させていただきました」

 迷いながらも、自分自身の体力を見つめ、若手の成長を感じながらジャージーを脱ぐ時が訪れたと自ら決意した。会見では、引退への思いと同時に最大の理解者であり心の支えだった家族への感謝も伝えている。

「自分のモチベーションを上げてくれる存在でしたし、子供たちの笑顔をみたくて頑張ってきた部分もあります。何よりも妻がアスリート(バドミントン選手)だったので、優しかった部分もありましたが厳しい部分もあって、一緒に頑張ろうとずっと言い続けてくれた。本当に妻がいたからこそ、ここまでやってこられましたし、妻のおかげで本当に最高のラグビー人生を送れたなと感じています」

 代表キャップ75は日本歴代7位。SHでは最多になる。そんなフミは、2008年の初代表入りからジョン・カーワン、エディー・ジョーンズ、そして昨秋まで指揮を執ったジェイミー・ジョセフと、歴代指揮官からメンバーに選ばれてきた。もちろんSHというパス供給役ながら、どんな相手にも喰らいつくタックルがチームに必要な武器と評価されたからだ。

 引退会見でフミ自身が「日本の皆さんに感動を届けられたんじゃないかと思うので、あの試合が(代表戦で最も)印象に残ります」と振り返った2015年W杯での南アフリカ戦では、この9番の真骨頂も見せている。本人は悔やんでいたプレーだが、22-22からの後半22分の南アフリカ代表のトライシーンでは、身長185cm、体重113kgのHOアドリアン・ストラウスの突進に、20cm、40kg小さい9番が真っ向から突き刺さっている。結果的にはタックルを吹っ飛ばされてスコアを許してしまったのだが、苦境の中でチームで最も小さな男が見せた恐怖を超越した勇気と勝利への飽くなき情熱が14人の仲間を奮い立たせ、ラストワンプレーでの奇跡の逆転へ繋げた。

 その持ち味は、タックルばかりではない。代表でのキャリアを重ねる中で、本人はいつも後輩SHたちを「自分よりはるかにスキルの高い選手がどんどん出てきている」と何度も語っていた。新たに加わってきた流大らのパススキルや、当時重視され始めていたSHのキック力は、自分にはないものだと認めていたのだ。だが、敵陣ゴール前のトライチャンスなど勝負どころで見せた低く抑えの効いた鋭いパスは、他の追随を許さないものだった。

 取材する側としては、技術の領域というよりも感性や経験値によるものだと感じていた。名門・伏見工高時代から、どのような状況で、どこまで集中力を高めて、その状況下で何をしなくてはいけないか、何をしてはいけないかを、頭の中だけではなく体で覚えている選手だという印象を受けた。

 日本代表は、世界に挑んでは弾き返される敗者の歴史を積み上げてきた。その中で、小柄な選手にも活躍のチャンスがあるSHには好選手が名を連ねてきた。今里良三、日本代表監督も務めた故宿沢広朗、堀越正己、村田亙……。その系譜の中で、パスワークと同時にタックルでも世界に挑んできた稀有の存在が田中史朗という9番だった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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