日本新ならずまた涙 新谷仁美、「結果」に人生を懸ける仕事人間の流儀「頑張ったからOKはダメ」【東京マラソン】
前田穂南の日本記録更新に「頭がパニックになった」
年明け、横田コーチに指摘された。「新谷は自分のリズムで走った方が強さが出る」。改めて言語化され、ハッとした。1月末の大阪国際女子。20代の選手たちが五輪を争う一方、ペースメーカーを任された。責任を果たしつつ、自分のペースで走る瞬間も。「走りやすい」。時計より感覚を重視するきっかけになった。
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しかし、同レースで前田穂南(天満屋)が19年ぶりに野口みずきを上回る日本新を樹立。「悔しくて一瞬頭がパニックになった」。新谷は表面的なコメントではなく、自分の言葉で本音を表現する。
「悔しい以外何もない。よく『私も頑張らなきゃ』と言う方もいるけど、私は悔しい以外何もないです。この世界に入った以上、対価をもらって競技をするプロである以上、結果が出ないとその価値を下げてしまう」
少しずつ先を越されたことを受け入れ、前を向いた。五輪選考と関係ない東京マラソンにエントリー。いつもは10日ほど前から栄養士の力を借りるが、1か月前から依頼した。「良し悪しは自分で判断する。人任せにならないように」。摂取すべき栄養を理解しながら口に入れた。身近な後輩たち、未来のランナーのため、食事内容をSNSにアップ。生理の話題などと同様、積極的に発信する理由がある。
「アスリートだから何かを犠牲にしないといけないとは思わない。当たり前のことを除外してまでアスリートをやろうとは思わない。アスリートだからこそ健康第一。アスリートは(健康の)お手本だと思う。私がやってうまくいけば、それは伝えられること。結果を出して証明したい」
食事の意識が高まり、疲労の抜け方が変わった。神経質な自分でも納得できるほど状態がいい。記録更新の場に東京を選んだのは「移動がないから」と笑う。「36歳になって移動だけで疲労が溜まる。結果を出すためには無駄」。速く走るために全てを捧げてきた。
2年前、マラソン再挑戦を決意した時に言った。「走るのが嫌い」。それは今も変わらない。
「極力、走りたくない。でも、私は仕事人間。仕事が第一優先だからこそ、私についてきてくれた人がいるからこそ、サポートに対して形で返さないと。『頑張ったからOK』ではない。仕事は結果第一じゃないといけない。私は心で動いてしまう人間だから、周りの方々の想いがあれば動いてしまう。その想いに応えたいんです。
ご存知の通り、私は苦しみながら競技をしている人間です。楽しさを求めてないし、責任をもってこの仕事を全うしたい。(努力は)無駄にならないと言うけど、結果が出なければ無駄。サポートしてくださる方々がいるし、無駄にならないように私が結果を出す。そういうものを表現として届けたいし、私の走りを見て誰かの活力になれば」