帝京大、コロナ禍入学の世代で掴んだV3 異例55分中断も…主将を支えた部員140人の「ONE HEART」
コロナ禍入学の世代、別々に練習した期間も…江良「仲間意識が薄くなってしまった」
よもやの悪天候。でも、王者は折れない。その土台が「ONE HEART」だった。
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現4年生が最強軍団の赤いジャージに憧れ、門を叩いたのは20年4月。待っていたのは未曽有のパンデミックだった。A~Dの4チームの合同練習後、どこかのチームに感染者が出ると部全体が活動休止になる。クラスターを防ぐため、別れて練習した。
江良は「コロナ禍で当たり前のことが当たり前じゃないと気づかされた。本当に一日、一日を大事にしないといけない。それを全員が思えた」とチームの成長を感じた一方で、「仲間意識が凄く薄くなってしまったのが一番悪かった」と別々に練習した期間を悔いた。
結束力を強固にするため、新チームになって同期だけでミーティング。「ONE HEART」をスローガンに立てた。「仲間のために体を張る。背負うものは大きい」。メンバーにずっと言い続けた。大阪桐蔭高時代からのチームメートだった副将のFL奥井章仁らに支えられた1年。フィジカル練習では過酷すぎて嘔吐するメンバーもいたが、どんな時も心を一つにして乗り越えた。
「そういう練習を乗り越えているので、今日も配分は考えず、全員が最初から出し切ることを考えていた」
相馬監督は「ピンチになればなるほど、江良と奥井が楽しそうにやる。周りが疲れるほど、彼らは生き生きとする。頼もしい」と涙ぐんだ。明大の猛追を受けても自信は揺らがない。ハーフタイムに「最後の40分。最高の舞台で仲間を背負って戦い続けよう」と指揮官に伝えられ、全員が同じ絵を描けた。
スタンドは「帝京!」コールの大合唱。とどめを刺したのは、全員の想いを背負うキャプテンだった。27-15の後半37分。「ここで獲れば試合が決まる」。またもモール最後方からボールを持って飛び出した。同時に両脚が痙攣。「やばい」。気づいたらインゴール。本能のトライだった。
「みんなで押して、空いたスペースに飛び込んだだけ。自分は脚が痛すぎて喜びをあまり感じられなかったのが正直なところ(笑)。でも、みんなが喜ぶ姿が嬉しかった」
場内インタビューを受けた後、スタンドの部員たちが赤いチャンピオンTシャツを着てピッチに降りてきた。140人でつくった歓喜の輪。また江良から涙が溢れる。
「最後に全員の喜んだ顔を見ると、1年間積み重ねてきたことが間違っていなかったと思えた。みんなの顔が凄く嬉しそうで、幸せを噛み締めた。味わったことのない幸せです」
前夜は緊張で眠れなかった主将。胴上げで3度宙を舞う姿は、寒さを忘れるほど熱気に満ちていた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)