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30年余りで花園予選1490→549校に激減 高校ラグビーへの提言、“高松北の悲劇”に今も残る忸怩たる思い

部員15人で選手1人が骨折、花園で辞退を強いられた“高松北の悲劇”

 部員不足という問題では、花園でも象徴的な出来事も起きていた。1回戦で倉吉東(鳥取)に48-3と快勝した高松北(香川)が、試合後に2回戦を辞退すると大会側が発表したのだ。昨年も取材して、コラムでも紹介した高松北だが、今年度で2大会連続15度目の出場をしている一方で、常に部員不足に腐心しながら花園への挑戦を続けてきた。今季の部員も、試合が成立するギリギリの15人。創部初、県勢2度目の花園での白星を掴んだが、CTB三浦駿佑(3年)が試合中に左足を骨折して負傷退場したため、次戦を成立させるための15人が揃えられず、苦渋の決断を強いられた。三浦選手自身も野球部から転部したばかりの部員だった。

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 まだ辞退が決まる前の、試合後の取材では高木智監督は選手たちを「新チーム6人からです。夏は11人で、2学期になって野球部から生徒が入ってきてくれて15人ぎりぎりでここまで来た」と称え、14人になることが濃厚な次戦については「いまから実行委員会に聞きます」と潔かった。心中のどこかに、いつ試合が不成立になるかも知れない15人で戦うことのリスクや、同校初の花園勝利など、チームは全てを出し尽くしたという思いもあったのかも知れない。

 規約上は試合開始の時点で選手15人を満たすことが条件としてあったが、関係者から話を聞くと、高松北サイドが試合開始時に、たとえ松葉杖を使ってでも15人がピッチに立てれば、キックオフ直後に選手を“負傷退場”させることで2回戦は実現したと聞いた。主催者側は立場上、そのような“抜け道”をチームに指南することは出来なかったが、多くの関係者がそんな思いを胸中に抱きながら高松北の辞退を受け入れたようだ。

 大会に携わる大半の人たちが、なんとか試合をさせてあげたいという気持ちだったのは間違いない。だが、別の視点からこの辞退劇をみると疑問符も浮かんでくる。高松北はもとより、花園出場校レベルのチームですら深刻な部員数不足に苛まれているのは、出場校が決まった時点から大会関係者、高体連および協会役員、そして現場の監督・教員たちが最も認識していたはずだ。日本協会の高校ラグビー部登録選手数を見ても、2022年度までの推移は2万1516→2万488→1万9684→1万8418人と減少の一途だ。同様に登録チーム数も963→931→922→885チームと歯止めが掛からない。

 花園の現場でも、山形中央が17人で出場するなど“第2の高松北”の悲劇に見舞われる可能性があるチームも存在していた。このような事態が花園の檜舞台でも日常化しつつある状況を踏まえれば、大会開幕よりも前に部員数が不十分な参加校が不測の事態に見舞われた場合、どうすれば試合を辞退せずに行うことが出来るかという、いわば救済策を検討してもいいのではないだろうか。それが、いま高校ラグビーの置かれた現実だろう。

 すこし乱暴なアイデアではあるが、例えば部員が少ない出場チームに、同じ都道府県予選に出場した他校の選手を補充メンバーとして登録する、いわば「都市対抗野球方式」を導入してもいい。少ないメンバーで戦うことにも意義はあると思うが、安全性が重視される時代だ。馴れないポジションで怪我をするリスクがあるのなら、15人や17人ではなく、ベンチ入り出来る25人を満たす補強を認めてもいい。

 今回の高松北のケースでも、監督にプレーが100%不可能な選手を“出場”させるような曲芸を求めるよりも、相手側としては甚だ迷惑な相談でも、2回戦で対戦予定だったチームに14対14での試合を相談したほうがまだマシなように思うのは暴論だろうか。何故なら、ラグビーの試合の根源的な前提条件は「イコールコンディション」なのだから。

 多くのチームが部員を確保出来ていた10年、いや20年前なら「14人なら試合は不成立」というルールでも問題はなかったかも知れない。だが、時はラグビーという範疇を超えて社会の誰もが認識する少子化時代だ。この状況を踏まえ、高校ラグビー界の実情を鑑みた時代の変化に即した柔軟な対応が必要なのではないか。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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