井上尚弥が闘った「どう倒すか」の目線 怪物は常に壁をぶち破る「逞しく、完璧に、想像を超えて―」
プロボクサーとしての強烈な責任感「自分が最高の結果を出して…」
「周りのムードが一番怖い」。今回は楽観視を拭い去るため、これまで80ラウンド前後だったスパーリングは過去最多の116ラウンドを消化して追い込んだ。1万5000枚のチケットは即完売。遠くから足を運んでくれるファンに応えたい。プロボクサーとして強烈な責任感がある。
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「期待を感じるし、そうじゃないと(期待に応えないと)いけないと思う。自分もキャリアの後半。これからの後輩ボクサーがこの波に乗れて、ボクシング界が盛り上がって、また人気が10年、20年と続いていければいい。自分が最高の結果を出して、そういうものをつくっていかないといけない責任がある」
だから、ボクシングを極め続け、相手をなぎ倒す。視線の先にいるのは、しぶといタパレス。手を変え品を変え、大小さまざまなパンチで揺さぶった。攻め急がずに、じっくりと。フィナーレは10回だ。
ガードの間をこじ開けるように強烈なワンツーを発射。右拳が顔面を貫き、10カウントを突きつけた。コーナーに上り、勝利をアピール。「非常にタフで気持ちの強い選手。その選手に勝つことができて、自分がやってきたことが証明できた」。宿命づけられたKO勝利を今夜も完遂。観客は総立ちだ。
並の世界王者なら判定にもつれた相手。井上だから倒し切れた。傷だらけのタパレスの顔が被弾数とパンチの衝撃度を物語る。日本人最多タイの世界戦通算21勝目、そのうちKOが19回。2階級4団体統一でも凄いのに、8本のベルトを全てKOで奪うなんて異次元。世界レベルの選手を圧倒してきた証拠だ。
試合後、10ラウンドを戦ったとは思えない綺麗な顔でリングから客席を見渡す。歓喜の波が広がっていた。
「自分が4本のベルトを肩にかけて、会場の雰囲気を見るのは感動的なものです。それを見せてくれたファンにも感謝を伝えたい。この4本のベルトがどうなっても、また熱い試合を見せたいです。ファンが喜ぶ、見たい試合を実現していきたい」
5月が想定される次戦の相手は誰なのか。WBAはムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が、WBCはルイス・ネリ(メキシコ)が指名挑戦権を持つ。誰とやっても壮観な試合を演じてくれるだろう。
今興行のキャッチコピーは『井上尚弥に夢を見る』だった。いたるところに告知ポスターが貼られた大橋ジムお膝元の横浜駅。そこに記されたワンフレーズが実にしっくりきた。
誰もが一度はぶつかるその壁を、井上尚弥はいつだってぶち破る。逞しく。完璧に。想像を超えて――。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)