「俺は詐欺師だ」 スポンサーを裏切った東京五輪敗戦、再起のアマボクサー岡澤セオンに吹いた逆風
“聖地”ウズベキスタンで見た光景「自分がいい気になっていた」
万全を期して臨んだ23年5月の世界選手権。階級は異なるが、2大会連続優勝がかかる中、また3回戦で敗れた。「今まで負けるようなレベルの相手じゃない」。落胆していた試合後、一本の電話が鳴った。
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田中亮明からだった。
「お前、なんでアウトボクシングやめたの? お前からアウトボクシングを取ったら普通のボクサーになっちゃうよ。お前の一番いいところはそこなんだから、そこを信じてやるしかない。ボクシングは“スタイルウォーズ”だから。自分のスタイルを互いに押し付け合って、それでどっちがいいのか、あとは審判に判断してもらうもの。自分のスタイルを見失ったらダメだよ」
ハッとした。長年慣れ親しんだスタイルに回帰。「感覚を取り戻すのは大変だった。足を動かす体力と、しっかり打つ時の体力はまた違う」。走り込みを3倍に増やした。6月半ばからカザフスタンとウズベキスタンにそれぞれ2週間ほど合宿。その後はイタリアでも汗を流した。「走った量は明らかに人生で一番」。特にアマボクシングの“聖地”と言われるウズベキスタンのヤンギャバードでボクサーとしての価値観を変えられた。
まずは練習量に圧倒させられた。負荷の強弱はあるが、1か月間オフはゼロ。「このままじゃ絶対に勝てないと突きつけられた」。山奥で娯楽は少ない。「山の中に1000人以上の子どもたちがいるんです」。日本代表の練習を窓の外から覗き込む少年たち。「オカザワ! オカザワ!」。世界王者として名前が知られており、写真撮影をせがまれる。日本では考えられない光景だった。
「その子たちが何もないところで親と一緒に朝からずっと走ったり、ボクシングやフィジカルトレーニングをしたり。そういう場所で、小さい頃から上を目指して頑張っている子たちがふるいに掛けられて、残った選手が今のウズベキスタン代表。そう思ったら、この選手たちに勝とうとしていた今までの自分が失礼なぐらいでした。ボクシングを舐めていたなと。
日本人が高校から競技を始めて、ちょっとセンスがあるんだかなんだかわからないけど、パッと練習して、フィジカルトレーナーに教えてもらっただけでいい気になって。俺が逆の立場だったら『舐めんなよ』って思うはずです。ボクシングへの向き合い方は、明らかにガラッと変わりました」
一緒に行った男子フェザー級代表の原田周大と「ちょっと恥ずかしいね」と話すほど。街の電光掲示板には、渋谷のスクランブル交差点のようにアマボクサーの巨大広告があった。
「日本ならプロ野球選手のような扱い。住みたくなるくらい感動を受けました。アマチュアボクサーにとって、こんなに幸せなところはない。リスペクトを受けながら頑張って、子どもたちからの視線を受けながら練習できる環境。周りのボクサーたちのギラギラ感だったり、アマチュアボクシングを愛している感じも違う。ボクサーだったら絶対に一度は行った方がいいと思います」