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「このままでは世界と戦えない」 2度目の陸上MGC2つの考察、一発勝負の好影響と五輪本番への疑問

パリ五輪のマラソン代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が15日、東京・国立競技場発着で行われた。東京五輪前に透明性のある選考方法として始まり、2回目を迎えた代表選考レース。公平で、ファンにも分かりやすい一発勝負で、男女各2選手がパリ行きのキップを手にした。「五輪の華」マラソンだからこそ注目を集める選考に迫った。(文=荻島 弘一)

15日に行われたパリ五輪のマラソン代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ【写真:徳原隆元】
15日に行われたパリ五輪のマラソン代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ【写真:徳原隆元】

透明性のあるマラソン代表選考レースがもたらすメリットとデメリット

 パリ五輪のマラソン代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が15日、東京・国立競技場発着で行われた。東京五輪前に透明性のある選考方法として始まり、2回目を迎えた代表選考レース。公平で、ファンにも分かりやすい一発勝負で、男女各2選手がパリ行きのキップを手にした。「五輪の華」マラソンだからこそ注目を集める選考に迫った。(文=荻島 弘一)

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「このままでは、世界と戦えない」。レース終了後、日本陸連ロードランニングコミッションリーダーの瀬古利彦氏は複雑な表情だった。思いもしないレース展開。特に男子は有力選手が次々と脱落し、五輪出場権を手にしたのは自己記録で出場選手中23番目の小山直城と58番目の赤崎暁。一発勝負ならではの結果とはいえ、日本陸上界として手放しで喜べる結果ではなかった。

 もちろん、2人の走りは素晴らしかった。難しいコンディションの中、実力者の大迫傑との競り合いを制した。このレースに向けて準備し、しっかり力を出し切ったのは見事。ここまでの努力は称賛に値する。ただ、現時点で「日本を代表するランナー」というのは難しい。

 ともに能力の高さは認められていたし、期待もされている。しかし、世界と比べれば実力はまだまだ。「伸びしろがある」という瀬古氏の言葉には「伸びてくれ」という切実な願いも込められている。五輪でのメダル獲得を目指した大会だが、優勝した小山のパリでの目標は「8位入賞」だった。

 かつては、複数のレースの成績を総合的に判断して代表を決めていた。条件の違うレースの結果を比べることが物議を醸した。「分かりやすい一発勝負に」という声は、瀬古氏の現役時代にもあった。ただ、それぞれ大手新聞社やスポンサーがつく選考レースをまとめることは、不可能だと思われていた。「一発勝負」は「理想」にすぎなかった。

 もっとも、公平性や透明性が求められる近年は「あいまいな」選考が許されなくなった。特に注目度の高いマラソンには、厳しい目が向けられる。日本陸連は「不可能」とされてきた選考レースの一本化を決断。様々な難題をクリアして創設したのが、MGCだった。

 代表選考の明確化は、マラソン界に好影響を与えた。選手のパフォーマンスが即結果につながる一発勝負。選手はもちろん、指導者たちも明確なターゲットができたことを好意的に受けとめた。各企業や大学も、駅伝だけではなく、マラソンにも力を入れだした。

 日本実業団陸連が日本記録突破に1億円の報奨金を設定したこともあって、18年には設楽悠太が16年ぶりに日本記録を更新。その後も3回更新されるなど男子マラソン界は活気づき、レベルの底上げにもつながった。MGCの果たした役割は大きかった。

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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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