32歳の大迫傑が「無心」で走ったMGC 5秒差で敗れても気づけた「僕自身の変わらない強さ」
たった一人の米国合宿で自問自答「なぜ、マラソンを走りたいのか」
東京五輪後に一度は引退を決断した。半年後に「もう一回こういう場でワクワクドキドキしたい」と現役復帰を表明。今年3月の東京で復帰後2本目のマラソンを終えると、米フラッグスタッフへ約3か月の高地トレーニングに向かった。
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「最近は周りにいろんなものがあって、ちょっと“トゥーマッチ”な部分があったので、必要のないものを取り除いていった。他のトレーニングでもそうですが、『みんなでやる』ってそんなに難しくないじゃないですか。前回以上のトレーニングを一人で淡々とこなしていくことが、僕の中でMGCへの自信に繋がる。それを絵に(描いて)一人で行きました」
これまでケニアなどで世界の猛者と並んで走ったが、今回はたった一人。「なぜ、MGCを走りたいのか。なぜ、マラソンを走りたいのか」。汗をかく自分に問いかけた。「自分が誰かと競い合うこと、自分の思っていることを走りで表現することが好きなんだな」。32歳になり、そう気づけたことが収穫だった。
「4年前のきつい坂がフラッシュバックした」という39キロ地点。ずるずると後退した悪夢が蘇る。「けど、これまで以上に無心で走れた」。結果的には同じ順位だが、一人で耐え抜いた合宿の成果を感じ取った。まだ大迫は強くなれる。
「今回は夢中という言葉を意識しました。今まで考えすぎていた部分があったので。無心に近い状態で走れるようになった。まだまだですけど、完璧になった時に優勝が見えてくるんじゃないか」
残る3枠目は、MGCファイナルチャレンジの3レースで設定記録2時間5分50秒を破った記録最上位選手が選ばれる。該当者が出なければ、MGC3位の大迫が代表入り。前回は即時内定を逃しながら、翌年3月の東京マラソンで当時の日本記録を叩き出し、3枠目を奪い取った。今後はチームと相談して出場可否を決める。
「前回同様に難しい立場になりましたが、自分自身にとっていい機会だと捉えて、またしっかりトレーニングを積んでいきたい。殻を破るにはどうしたらいいか。引き続き課題として持っておきたいし、持たないといけない」
フィニッシュ後、一時は3位争いをした川内のもとへ歩み寄り、激走を称え合った。雨に濡れた体は、防寒着に身を包んでも全身が震える寒さ。「走っている最中は感じなかった」。それだけ熱い42.195キロだった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)